ロサンゼルスは、本当に「世界最先端の都市」なのか?
ある一面において、実はロサンゼルスより日本の地方都市のほうが「土壌が整っている」のではと感じる時がある。この記事では「キャッシュレス決済の普及」について取り上げるが、我々日本人がおぼろげに「キャッシュレス先進地帯」と考えていたアメリカの大都市では「実店舗の完全キャッシュレス化」にNOを突きつける動議が次々に提出されている。
そしてそれは、日米の「金融インフラ」の差異を浮き彫りにする現象でもある。
ロサンゼルス市では「キャッシュレス決済だけの店舗」を禁止する動き
今年8月、ロサンゼルス市のヘザー・ハット市議会議員がこのような動議を議会に提出した。
「キャッシュレス決済のみしか受け付けない小売店舗の禁止」に関する動議である。
即ち、あらゆる店舗がその決済をキャッシュレスに絞ってしまうと、そのサービスに授かれない市民が出てしまうという懸念からの提案だ。ロサンゼルス市には銀行口座を所有していない低所得者が少なくなく、そのような人はクレカはおろかあらゆるキャッシュレス決済サービスの恩恵に与ることができない。
従って、キャッシュレス決済の普及は構わないが現金決済の選択肢を残しておかなければならないというハット議員の主張である。
「銀行口座を持っていない人」というのは、日本ではなかなか見かけない。一般社団法人全国銀行協会が公開している調査資料『よりよい銀行づくりのためのアンケート』(2019年2月)によると、全国3,700人(18~79歳の男女)対象のアンケートで「いずれかの銀行で、個人口座を持つ人」の割合は91.1%。都市銀行か地方銀行かはともかく、少なくとも殆どの日本人が自分の銀行口座を持っているのだ。
しかし、国が変われば事情も変わる。銀行口座は「誰しもが持てるもの」ではなく、ある一定以上の経済力がなければ銀行と縁を持つことはできないという国すら地球上には存在する。
問題は、アメリカの大都市部ですらもそのような状況が見受けられるということだ。
キャッシュレス決済が生み出す「情報格差」
2020年1月、ニューヨーク市議会は飲食店や小売店が現金決済を拒否することを禁止する法案を可決した。
これも「実店舗にキャッシュレス決済を導入するのはいいが、現金決済を廃止してはいけない」という内容である。
あらゆる店舗がキャッシュレス決済に移行すると、どうしても「情報格差」が発生する。この「情報格差」というのは時代によって内容が変わる特殊な言葉でもあり、20年ほど前は「地域間の通信インフラの格差」を指していた。が、今では「個人間のアクセス格差」になっている。キャッシュレス決済分野は、まさにその代表例と言える。
日本の各都市でもロサンゼルスのようなことが発生している可能性は、もちろんあるだろう。ただ、それでも日本のほうが「都市生活の完全キャッシュレス化」のための土壌が整っているのではないか。