最低賃金とは、国が設定する賃金の最低ラインです。地域経済の実態を反映させるため、金額は都道府県ごとに設定されています。使用者が労働者に賃金を支払うときは、最低賃金以上となることが必須となります。最低賃金の概要や計算方法・企業への影響を見ていきましょう。
2023年度の最低賃金引き上げへ
2023年8月に厚生労働省が、最低賃金引き上げを発表し大きな話題となりました。最低賃金とはどのようなものなのか、詳しく紹介します。
平均額は初の1,000円超え
厚生労働省は、2023年度(令和5年度)の『地域別最低賃金改定額』の全国加重平均額について、現行の961円から1,004円となることを発表しました。43円もの引き上げは、1978年度に最低賃金の目安制度が開始されて以降最大です。
また、今回の最低賃金の改定では、最低賃金引き上げの目安を示すランク分けが3区分になったことにも注目が集まっています。
従来の4ランク区分は、地域間の賃金格差が縮小されにくいことが問題視されていました。政府はランク数を3に減らし、地域間格差の是正を強く推し進めていく方針です。目安ランクの変更も、1978年度に目安制度が始まって以降初めてとなりました。
参考:令和5年度最低賃金額答申|厚生労働省
参考:地域間格差の是正を目指して最低賃金のランクを4区分から3区分に変更(スペシャルトピック:ビジネス・レーバー・トレンド 2023年5月号)|労働政策研究・研修機構(JILPT)
そもそも最低賃金とは
最低賃金とは、最低賃金法第4条で定められている最低限の賃金です。使用者は労働者に対し、最低賃金以上の賃金を支払わなければなりません。使用者と労働者が最低賃金以下で雇用契約を結んだ場合でも、最低賃金を下回るものは無効となります。
最低賃金制度は、国民経済の健全な発展を目指して作られた制度です。労働者の最低賃金を保障することにより、『労働者の生活の安定』『労働力の質的向上』『事業の公正な競争の確保』が期待されます。
最低賃金の2つの種類
最低賃金には、『地域別最低賃金』と『特定(産業別)最低賃金』があります。
地域別最低賃金とは、各都道府県で働く労働者に対し、一律に適用される最低賃金です。金額は、『労働者の賃金』『労働者の生計費』『通常の事業の賃金支払能力』の3要素を勘案して、地方最低賃金審議会が審議を行います。異議申し立ての手続きを経た後は、都道府県労働局長が決定し公示される流れです。
一方、特定最低賃金とは、特定の産業または職業を対象に設定される最低賃金です。特定産業について、地域別最低賃金よりも高額な賃金が必要と認められた場合に設定されます。2023年3月31日時点の特定最低賃金は、全国で227件です。
知っておきたい最低賃金の計算方法
最低賃金の引き上げに伴い、現行の賃金の見直しが必要となる企業も出てくるかもしれません。自社の賃金が最低賃金をクリアしているかどうか、確認する方法を紹介します。
最低賃金から除外される項目
最低賃金とは『毎月支払われる基本的な賃金』であり、一部手当やボーナスなどは含みません。最低賃金の計算で使われるのは、『基本給』『基本的な諸手当』を合わせた金額です。以下の項目は、最低賃金に含まれません。
- 結婚手当など
- 賞与など
- 時間外割増賃金など
- 休日割増賃金など
- 深夜割増賃金など
- 精皆勤手当
- 通勤手当
- 家族手当
ただし、『賃金』というときは、上記は全て含まれます。
最低賃金以上かどうかの確認方法
時間給で賃金を支払っている企業は、従業員に支払っている時給と国の最低賃金を比較しましょう。最低賃金が『時間給≧最低賃金額(時間額)』となれば、国の基準をクリアしています。
時給以外の給与形態を採用している企業は、以下の方法で最低賃金を比較・確認できます。
- 日給制:日給÷1日の所定労働時間≧最低賃金額(時間額)
- 月給制:月給÷1カ月平均所定労働時間≧最低賃金額(時間額)
- 組み合わせ型:(例)基本給が日給制で、各手当が月給制の場合などは、日給・月給それぞれを時給換算して合計した金額≧最低賃金額(時間額)
- 出来高払い制・その他の請負制によって定められた賃金:賃金の総額を、当該賃金算定期間において出来高払い制その他の請負制によって労働した総労働時間数で除した時間当たりの金額≧最低賃金(時間額)
日給制の場合、日給を1日の所定労働時間で割って時給換算します。所定労働時間とは、雇用契約上の労働時間です。始業から終業までの時間から、休憩時間を除外したものを指します。
ただし、日額が定められている特定(産業別)最低賃金が適用される場合は、そのまま比較して『日給≧最低賃金額(日額)』となれば問題ありません。
一方、月給制の場合は、以下の式で1カ月平均所定労働時間を算出します。
『1カ月平均所定労働時間=(365日-年間休日数)×1日の所定労働時間÷12カ月』
月給を上記で算出した1カ月平均所定労働時間で割れば、時給換算した最低賃金が分かります。国の最低賃金と比較して、適切かどうか確認しましょう。
なお日給制・月給制の両方を採用している企業は、それぞれの最低賃金を時給換算した上で合計し、比較します。
最低賃金の引き上げが企業に及ぼす影響
最低賃金が引き上げられると、企業負担が増加するといわれています。企業が受ける影響について詳しく見ていきましょう。
人件費の増加
最低賃金の引き上げにより、給料の支払総額が上がります。人件費の負担が増大することにより、営業利益を圧迫する恐れがあるでしょう。企業によっては、業務フローや人員配置の見直しを迫られることとなるかもしれません。
最低賃金の引き上げによる負担を受けやすいのは、最低賃金で雇ったパート・アルバイトを主力とする事業者や製造業などです。
特に製造業は、価格競争の関係から、人件費の増加分を価格に転嫁しにくいといわれます。最低賃金の引き上げで人件費比率が増えると、営業利益率が大きく低下する傾向です。
参考:キーワードで見る法人企業統計「売上高人件費比率」 : 財務総合政策研究所
雇用の縮小
最低賃金の引き上げによって人件費率が上がると、雇用を抑制しようとする企業が少なくありません。新規雇い入れが減ることで、在籍している社員の負担が増える可能性があります。
また、最低賃金の引き上げにより、求職者もより高いレベルの給料を求めるようになるかもしれません。給料について他社との差別化が難しかったり、魅力的な金額を提示できなかったりする企業は、優秀な人材の確保が難しくなる恐れがあります。
収益悪化による設備投資への抑制
最低賃金の引き上げによって人件費率が増えると、営業利益率の低下を招きます。企業利益が減少した場合、設備投資を控える企業もあるでしょう。従業員の労働効率の低下はもちろん、企業全体の生産性が低下する恐れがあります。
そもそも設備投資は、企業の堅実な成長と事業基盤の形成に必要不可欠です。設備投資の抑制によって企業の競争力がそがれれば、事業規模の縮小や倒産・廃業もあり得ます。