零式艦上戦闘機。この軍用機をひとつの工業製品としてみれば、悲しくも美しい魅力に満ちていることが分かる。
零戦が制式採用された当時、この飛行機は文字通り世界最先端の性能を誇っていた。飛行機とは西洋人が長い年月をかけてようやく発明した「近代の利器」。それを東洋の島国日本が、ある意味で「再発明」をしてしまったのだ。
緻密な計算の上で成り立ったこの零戦を模型化するとしたら、やはり緻密な計算を用いなければならない。
今回はホビージャパンのキットブランド『HJMダイキャスト戦闘機シリーズ』の第1弾&第2弾『1/32 零式艦上戦闘機五二型』を取り上げつつ、「零戦をモデル化することの意義」、そして「製品の中にある付加価値」についても考えていきたい。
作る側の「知識レベル」
ここは新宿駅からほど近い位置にある、ホビージャパン本社。
筆者を待ち受けていたのは、ホビー開発課 高橋誠氏。『1/32 零式艦上戦闘機五二型』の企画・開発を手掛けた人物である。ここで言う「企画・開発」とは、歴史考証も含まれる。
「零戦には三菱重工製と中島飛行機製が存在し、それぞれ細部が異なります」
これはどういう意味かというと、零戦の設計と開発、製造は三菱重工が行ったが、総生産数の大半は中島飛行機での生産機が占めたということだ。生産メーカーが違えば、細部の仕様も微妙に違う。
もっとも、研究家にとっての「微妙」は決して微妙ではない。極めて大きな違いだ。
『1/32 零式艦上戦闘機五二型』のラインナップは全2種。空母大鳳搭載機だった第601海軍航空隊の零戦五二型と、ラバウルにいた第253海軍航空隊の岩本徹三飛曹長(この機に搭乗していた当時の階級)である。前者は中島製、後者は三菱製。しかし同じ生産メーカーでも、時期によってまた仕様が異なってくることにも注意が必要だ。
たとえば、大鳳搭載機の零戦には単排気管の部分にツギハギのようなパッチがあるが、岩本機にはそれがない。当然ながら、これもキット開発陣の歴史考察の成果である。
「このような製品を世に送り出す以上、それを作る側の知識レベルがユーザーより下であってはいけないのです」
そう語気を強める高橋氏。そして、この瞬間の高橋の目がいぶし銀のように輝いていたことを筆者は見落とさなかった。
人は「一番言いたいこと」を話した瞬間に、このような輝きを発する。