主要ながん検診に寿命延長効果はない
マンモグラフィや大腸内視鏡検査などの代表的ながんスクリーニング検査(以下、がん検診)を受けても、大部分は寿命の延長に寄与しないとするメタアナリシスの結果を、オスロ大学(ノルウェー)健康社会研究所のMichael Bretthauer氏らが報告した。
Bretthauer氏は、「われわれは、全てのがん検診をやめるべきだと主張しているわけではない。ベネフィットがリスクを上回るようないくつかのがん検診は、実施する価値が十分にある」と述べている。この研究の詳細は、「JAMA Internal Medicine」に2023年8月28日掲載された。
がんの早期診断は予後を改善することが示されており、1991年以来、全世界でがんによる死亡者数は33%減少しているとCNNは報じている。
この減少には、治療法の進歩や喫煙者の減少が関係しているとともに、がん検診によるがんの早期発見も寄与していると考えられている。このため、米国がん協会や世界保健機関(WHO)も、定期的ながん検診の受診を推奨している。
Bretthauer氏らは今回、MEDLINEとコクランライブラリーから、がん検診に関する追跡期間が9年以上のランダム化比較試験(RCT)を18件(対象者数は計211万1,958人)抽出し、メタ解析によりがん検診の全死亡や寿命の延長に対する効果を検討した。
がん検診は、乳がんのマンモグラフィ、大腸がんの全大腸内視鏡検査・S状結腸内視鏡検査・便潜血検査(FOBT)、前立腺がんの前立腺特異抗原(PSA)検査、現喫煙者または元喫煙者を対象とした肺がんの胸部CT検査の6種類を対象とした。
18件のRCTの追跡期間中央値は、胸部CT検査、PSA検査、全大腸内視鏡検査で10年、マンモグラフィで13年、S状結腸内視鏡検査とFOBTで15年だった。
解析の結果、6種類のがん検診の中で、S状結腸内視鏡検査以外のがん検診では、検診を受けた人と受けなかった人との間で寿命の延長に有意な差が認められないことが明らかになった。
また、有意差の認められたS状結腸内視鏡検査でも、その延長期間はわずか3カ月程度(110日、95%信頼区間0〜274日)に過ぎないことも示された。
この論文の論評を執筆した、米ブリガム・アンド・ウイメンズ病院外科・公衆衛生センターのGilbert Welch氏とTanujit Dey氏は、「この研究で対象とされたような大規模なRCTは、政策立案者の間で注目度が高まりつつある、複数のがんを検出できる高価な血液検査の影響を理解する上で必要になるだろう」と話す。
両氏は、がん検診には欠点があることを指摘する。なぜなら、偽陽性の判定は患者の不安を増大させる一方で、偽陰性の判定は、実際には安全でないにもかかわらず安全だと思わせるからだ。
また、不必要な治療が有害となり得ることも指摘している。その上で同氏らは、「重要なのは、一部の人が得るベネフィットが、多くの人々にもたらす悪影響を正当化できるほど十分なものかどうかという問題だ。複数のがんを検出できる血液検査は、人々の命を救い、それに伴う費用や害を正当化する可能性は十分にあるが、検証してみない限り、明確なことは分からない」と述べている。
米国がん協会の最高科学責任者であるWilliam Dahut氏は、「がん検診の延命効果を明らかにするには、患者を長期間追跡する極めて大規模な臨床試験が必要だろう」とCNNに対して語っている。
同氏は、「今回の研究で対象とされた臨床試験では、がん検診の効果が検出されなかったかもしれないが、がん検診は、実際には子宮頸がんと前立腺がんの患者数を減少させるなど、がんによる死亡に影響を与えていると思われる」と話す。
Dahut氏は、「そもそもがん検診は、寿命を延長させるためのものではなく、がんによる早期死亡を減少させるためのものだ」と主張する。
そして、「例えば、ある人の寿命が80歳である場合、がん検診によって可能なのは65歳での早期死亡を防ぐことであり、90歳まで寿命を延ばすことではない」と説明する。
さらにDahut氏は「がん検診を受けることで100歳まで生きられるなどと言っている人はいない。ただ、がんは死因としては2番目に多いものであり、85歳前の死因としては最も多いことが知られている。それゆえ、がんに関連する症状やがんによる早期死亡を阻止することは、意義のあることなのだ」と付言している。(HealthDay News 2023年8月28日)
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(参考情報)
Abstract/Full Text
https://jamanetwork.com/journals/jamainternalmedicine/article-abstract/2808648
構成/DIME編集部