中国経済の減速が続いている。その背景にある要因とはいったい何なのか?また今後、中国経済を見る上で焦点になることとは?
三井住友DSアセットマネジメントはこのほど、同社チーフマーケットストラテジストの市川雅浩氏がその時々の市場動向を解説する「市川レポート」の最新版として、「中国経済減速の背景と今後の焦点」と題したマーケットレポートを公開した。レポートの詳細は以下の通り。
中国では、地方政府や融資平台などを軸とする不動産市場の活況が、経済の成長を支えてきた
中国では、先月発表された7月分の主要経済指標が市場予想を下回るなど、循環的な景気のモメンタム(勢い)の鈍化が続いている。この背景には、中国経済の成長を支えてきた不動産市場の冷え込みがあると思われ、以下、その経緯を確認していく。中国不動産市場の最大の特徴は、土地の「公有制」であり、不動産業者は建設用地を確保するため、地方政府から土地の使用権を購入する(図表1)。
不動産業者は、確保した土地にマンションを建設、販売するが、住宅価格の上昇局面では、大きな利益を計上できるため、積極的に借り入れを増やし、地方政府から土地使用権の購入を継続した。一方、地方政府は、土地使用権を売却した資金をインフラ整備に充て、地域経済の成長につなげてきた。橋や道路などを実際に整備するのは、地方政府傘下のインフラ投資会社「融資平台」で、融資平台は銀行融資や社債発行で資金を調達する。
ただ住宅価格が急騰し当局は規制強化へ、その結果、不動産市場が低迷し、経済成長が減速
しかしながら、このような不動産依存型の経済は、いくつかの問題を生み出した。1つは、融資平台の債務の膨張だ。地方政府傘下の融資平台は、その債務に暗黙の政府保証があるとみなされ、政府並みの低コストで借り入れを増やしていった。国際通貨基金(IMF)によると、2023年の融資平台の債務規模は、中央政府(約30兆元)と地方政府(約40兆元)の合計額に近い約66兆元に達する模様だ。
もう1つは、住宅価格の急騰だ。住宅価格の値上がりを見込んだ投機目的の購入が、富裕層を中心に広がり、特に北京などの大都市では住宅価格が高騰した。中国当局はこれらに対処すべく、2020年夏に大手不動産業者が守るべき負債比率などの財務指針「3つのレッドライン(三道紅線)」を設け、2021年1月には銀行の住宅ローンや不動産開発企業への融資に総量規制を設けたが、問題はさらに深刻化した。
焦点は、不動産市場の回復度合いや不動産関連の債務返済動向、当局の方針や施策に注目
中国当局の規制により住宅価格が下落に転じると、家計は逆資産効果で消費を抑制、不動産業者は業績悪化と債務返済能力の低下、地方政府は土地使用権売却の収入減、融資平台は債務返済能力の低下、という状況が発生した(図表2)。仮に不動産業者や融資平台が債務不履行(デフォルト)となった場合、それらが発行する債券を保有する投資家や、融資を行っている銀行は、損失を被る恐れもある。
以上より、今後、中国経済をみる上では、不動産市場の回復度合いや不動産関連の債務返済動向が焦点になると思われる。ただ、中国では初めて住宅を購入する30歳前後の人口が減少傾向にあることや、融資平台の債務の全貌は把握されていないとの声もあり、問題解決には時間を要すると考えられる。なお、中国当局は強力な市場管理能力を有しているため、今後どのような方針、施策を打ち出すのか、しっかりと見極める必要がある。
出典元:三井住友DSアセットマネジメント
構成/こじへい