過去に行われた為替介入の事例
日本政府はこれまでにさまざまな為替介入を行ってきました。2000年代以降の主な事例を紹介します。
2003年の介入
日本政府と日本銀行が2003年1月から2004年3月までに行った、大規模な円売り介入です。政府と日銀は1年3カ月の間に、約35兆円ものドル買い・円売りを実施しました。
介入は長期間にわたったものの、市場の円高の流れは止まっていません。2003年に120円台に達していたドル円相場は、2004年1月には105円台にまで円高が進んでいます。円が110円台を回復したのは、2004年3月になってからです。
2003年に円高が進んだ原因は、市場全体が「米国は『双子の赤字(財政収支・経常収支の赤字)』により、ドル安を容認している」との見解を持っていたためといわれています。
デフレからの脱却を目指していた日本政府は、『デフレ+円高』という深刻な事態を避けるため為替介入に踏み切りました。
2011年の介入
2011年の3・8・10・11月、日本政府は円高の進行を止めるため大規模なドル買い・円売りを繰り返しています。その結果、2011年の介入総額は14兆円に上りました。
リーマンショックやギリシャ危機の影響を受け、市場のトレンドは円高・ドル安に傾いていました。そこに東日本大震災が発生し、『有事の円買い』によりさらに円高の流れが強まったかたちです。2011年10月には、円は1ドル75円35銭という戦後最高値を記録しています。
政府・日銀は「投機的な円買いをけん制する」として、大規模なドル買/円売り介入を実施しました。これにより75円ラインは死守されましたが、すぐに円高の流れが変わったわけではありません。
当時の円高は投機的なものというよりは、市場のニーズに基づくものでした。2013年頃まで、円高のトレンドが続くこととなります。
2022年の介入
2022年9~10月にかけて行われた円買い・ドル売りの為替介入です。日本が円安をけん制するための介入を行うことは非常に珍しく、24年ぶりとなりました。為替介入総額は約9兆円に上っています。
2022年初頭に110円台だったレートが9月には140円台を突破し、10月には150円台にまで円安が進みました。政府は円安の流れを止めるため、為替介入に踏み切ったと見られています。
今回の為替介入は米国の理解を得て実施されており、一定の効果はあったとするのが一般的な見解です。ただし、円安の原因の一つは、『金利を引き上げる米国』『金融緩和を維持する日本』の金利差であるといわれています。為替介入による効果は限定的で、円安のトレンドは継続中です。
為替介入以外で為替相場に影響を与える要素
為替相場に影響を与えるものとして、『要人の発言』『政策金利』などがあります。それぞれ詳しく見ていきましょう。
要人の発言
市場を円高または円安にコントロールしたいとき、要人のちょっとした発言が為替介入と同様の効果を発揮することがあります。これは一般に『口先介入』などと呼ばれます。
例えば日本では、2015年に前日本銀行総裁・黒田東彦氏の発言で為替相場が動いたケースが有名です。円安が進む中、黒田氏は円安に否定的とも取れる発言を行っています。市場はすぐさま反応し、124円台半ばだったドル円レートは、122円台まで円高が進みました。
このほか、FRB(米連邦準備制度理事会)やECB(欧州中央銀行)の要人の発言にも、市場は大きく反応します。
政策金利
政策金利とは、各国の中央銀行が金融政策として定める金利です。金利はその国の経済に合わせて設定され、景気が良いときは引き上げられ、不景気になると引き下げられます。為替市場では、政策金利の高い国の通貨の需要が高く、低い国の通貨は売られる傾向です。
2008年にリーマンショックが起こり、世界各国が金利を引き下げざるを得ない状況となりました。しかし近年、米国をはじめとする多くの国が政策金利の利上げに踏み切っています。
投資家たちは低金利を維持する日本の円を売り、利率の高いドルやユーロなどを購入する動きが顕著です。
構成/編集部