生成AI関連の求人はテクノロジー関連の職種に集中するも、開発以外の職種にも浸透
生成AIに関連する求人には、どのような仕事があるのか。Indeedが通常定義する職種カテゴリのなかでは、「ソフトウェア開発」が生成AIに関連する求人全体の34%を占め、次いで「事務」(13%)、「クリエイティブ」(11%)となる。
さらに職種まで細分化し、生成AI関連の求人の上位20職種を抽出した。
生成AIに関連する求人に占める職種の割合を算出し、その上位20職種を掲載。青は主に生成AIなどITプロダクトの開発に関連する職種、赤は主に生成AIの活用により仕事を強化する職種、黄色は主に生成AIを利用する職種を表す。
全体的には、「ソフトウェア開発」の職種カテゴリが生成AI関連求人の上位である事と同様に、システムエンジニア、フロントエンドエンジニア、機械学習エンジニアなどのテクノロジー分野の職種が上位を占めている。
これらの職種は、生成AIなどの「開発」に本質的に関連している。他方で、生成AIの影響力が技術領域・エンジニアリングの領域を超えた役割に浸透しつつあることが、データから観測され注目に値するだろう。
例えば、日本では必ずしもエンジニアリング・スキルを必要としないWEBデザイナーの仕事(同職種の職種カテゴリは「クリエイティブ」)が、生成AIに関する職種として2位に位置している。
また似たような職種であるUI/UXデザイナーも9位だ。これらは生成AIを開発する仕事ではなく、生成AIの活用によって既存の仕事の質の向上や労力の削減が期待されるような仕事(以降、仕事の質の向上や労力の削減が臨める仕事を「強化される」仕事と呼ぶ)の典型でもある。
そして生成AIによって既存のデザインや画像からHTMLコーディングを一部自動化したものを活用することによる効率化や、生成AIによって提案された様々なレイアウトやデザインの中からより良いものを選ぶことでアウトプットの質の向上に繋がると考えられる。
生成AIの活用によって仕事がより強化される側面は生産性に関する言説と密接に関連
バックオフィス業務、営業等の求人情報にも生成AIに関する仕事の記載があり、これらはIT事務・IT営業あるいはライティング・編集・翻訳等に関連するものが多く含まれる。
このように、生成AIの活用によって仕事がより強化される側面は、生産性に関する言説と密接に関連しており、最近の学術論文では、生成AIの労働生産性の効果を実証分析するものが増えてきている。
例えば、Brynjolfsson, Li & Raymond (2023)では、生成AIに基づく会話アシスタントをカスタマーサポートに導入した場合の生産性効果を実証分析し、特に低スキルの労働者の生産性を向上させることを明らかにしている。
同様の結果はNoy & Zhang (2023) などでも確認されている。これらの研究は、生成AIが経験やスキルを有する労働者の潜在的な暗黙知の活用を容易にし、様々な仕事の労力を削減し、特に十分な経験やスキルを持たない労働者の生産性向上につながる可能性があることを強調している。
生成AIによって新たな職業も生じ始めている
生成AIは、既存の仕事の役割を強化するだけでなく、まったく新しい職業も誕生させている。このトレンドの顕著な例は、「プロンプトエンジニア」の出現であり、企業の課題などに対処するために生成AIに適したプロンプトを作成することを任務とする役割だ。
生成AIに関連する求人にプロンプトエンジニアが占める割合。データは月次平均。同データは実質的に2023年3月から観測され始めたため、期間は2023年3月-7月を掲載。
Indeedでは、求人データを分析するにあたり、各職種の定義を確立しているが、最近登場した「プロンプトエンジニア」はまだ定義が確立していない。
しかし、実質的にプロンプトエンジニアを意味する職を抽出すると、生成AI関連の求人にプロンプトエンジニアが占める割合は、2023年6月から大きく増加。2023年7月には生成AI関連の求人の7.8%を占めている。
実際、上記表中ですでに定義された上位20職種と比べても上位に位置している。
このようなダイナミックな状況は、生成AIと雇用市場の複雑な相互作用を浮き彫りにしている。そして、生成AIによって仕事の生産性が向上し、新たな専門職が生じ、その専門職の道を育成する可能性を際立たせている。
最近の学術研究はこの点で示唆に富んでおり、潜在的な専門知識を民主化し、労働努力を最適化し、最終的には熟練労働者と初心者労働者の両方の生産性を向上させる生成AIの能力を強調しているのだ。そして、Indeedのデータからも、全てとは言えないにしてもそのポテンシャルを確認することができる。
Indeed Japan Hiring Lab エコノミスト 青木 雄介氏
2012年東京工業大学工学部卒、2013年英国UCL(ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン)経済学修士。その後、外資系コンサルティングファーム等でエコノミスト・データサイエンティストとして政府・民間・司法機関に向けた経済統計分析及び報告書作成に従事。2022年8月より現職。Indeedのデータを活用してOECD各国及び日本の労働市場を分析し、外部関係者に向けて分析結果・インサイトを発信している。
関連情報
https://www.hiringlab.org/jp/
構成/清水眞希