やわらかい笑顔と澄んだ声、清らかで知的な印象をたたえる俳優・飯豊まりえさん。現在25歳の彼女は、10歳でデビューしてから、ファッションモデル、声優、俳優と表現の幅を広げ続けてきました。最近は、NHK 連続テレビ小説『ちむどんどん』や映画『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』での演技が高い評価を受け、テレビドラマ『何曜日に生まれたの』(ABCテレビ・テレビ朝日系・野島伸司脚本)では主演を務めています。そんな飯豊さんの、デビュー15 周年を記念した写真集『かの日、』(小学館)が発売されました。自ら企画立案とプロデュースを行った本作と、プライベートについて伺いました。
デビュー15 周年記念写真集『かの日、』を紹介する飯豊まりえさん
かけがえのない瞬間を伝えたい
――写真集の多くは、季節や場所などテーマを決め、そこでのベストショットを収録した作品が多いです。しかし、『かの日、』はそれとは真逆。強いテーマはなく、季節や場所もばらばら。だからこそ、ページをめくるたびに、忘れていた記憶のかけらが見つかるような物語性があります。
そうなんです。わかりやすいものもいいのですが、意識しないと気付かないこと、時代に流されて知らない間に消えてしまうもの、かけがえのない瞬間を伝えたいという思いがありました。
撮影は、24歳から25歳の約1年間。季節も春夏秋冬と変わって行っています。ロケ地も、東京の下町、沖縄、日光などさまざま。土砂降りのキャンプ場や、雪が降る中に撮影したこともありました。そして、衣装は私服で、メイクもセルフメイクで臨みました。
物語の中に、その“役割”から外れた、素の私自身がここにあると思います。
――ほとんどをフィルムで撮影したと聞きました。ご自身も趣味でフィルムカメラを使うと伺っています。
10代の頃から使っています。きっかけは、ソール・ライターさん(米国人写真家/1923~2013年)の作品を観たこと。ニューヨークの日常風景が芸術作品になっていることに感動し、見よう見まねで撮り始めたんです。同時期に、荒木陽子さんの『愛情生活』(作品社)というエッセイ写真集に出会いました。写真から愛情があふれてくるような温かさとリアリティに憧れています。
フィルムカメラはデジタルとは異なり、余白や体温があるような気がするんです。撮影していても、何が映っているかわからないですし、現像までに時間がかかることも、それもひとつの物語のようだと感じています。
今、使っているカメラは、オリンパスのフィルムカメラ『エクリュ』と、富士フイルムの『ナチュラクラシカ』。いずれも、気軽に使えるコンパクトカメラです。
「ウンチクを知り、それを人に伝えるのが好き」と語る飯豊まりえさん
“ウンチク”が大好き
――『かの日、』の写真には、ストーリーを感じる作品が多いです。飯豊さんは「物語性」に重きを置いているように感じました。
物語は好きで、撮影の待ち時間はたいてい本を読んでいます。学生時代は詩集やファンタジーが好きでしたが、最近は小説が多いです。恩田陸さんの作品群を読み進めながら、同時に『街とその不確かな壁』(村上春樹著/新潮社)に取り掛かったり、アイヌ民族の昔話を読んだり。
好奇心が赴くままに複数の作品を、同時進行で読むタイプです。鉱物の図鑑も好きですね……図鑑といえば『寿命図鑑 生き物から宇宙まで万物の寿命をあつめた図鑑』(いろは社)が面白かったです。人、動物、日用品、建築など13カテゴリーの「寿命」が紹介されているんです。「ソメイヨシノの寿命は80年」「開封した化粧品の寿命は4.5か月」などなど。始まりがあるから、終わりがあり、いつか消えていくという万物の宿命のようなものを感じました。
私はこういう“ウンチク”が大好きで、知識って得ると人に言いたくなるじゃないですか。よく、仕事仲間や友達に「またウンチクだよ~」と言われます(笑)。
漫画も昔からよく読んでいて、最近は漫画『コジコジ』(さくらももこ著/幻冬舎)のページをめくったり。漫画といえば『スキップとローファー』(高松美咲著/講談社)も好きです。人間関係の悩みや心模様がとても丁寧に描写されており、いろいろ共感できるところがあるんです。見事にどハマリしました。働く人にこそおすすめの作品です。
この作品の主人公・岩倉美津未ちゃんは、高い目標を掲げて、地方から上京して東京の進学校に入学。個性豊かで魅力的な友達といろんな経験をするのですが、これが私のかつての姿に重なりました。
私も15年前、美津未ちゃんのように自然豊かで自由な場所で生活していて、「芸能のお仕事をがんばるぞ!」と都会へと出てきたのです。最初は勝手がわからず、戸惑うこともありましたが、たくさんの方にいろんなことを教えていただき、ひたすらに歩んできました。
この作品はアニメにもなっているのですが、観るたびに、私も声優として参加したかった、と思います(笑)。
――アニメ作品にも多数出演する飯豊さんは、「声優の仕事はとても好きです。アニメの映像では伝えられることが限られているから、言葉の密度が濃いんです」と語ります。後編では、芸能界の移り変わり、これまでの仕事で出会った「カッコいい大人」や懐かしさの本質、最新写真集『かの日、』撮影時の裏話などを紹介します。
飯豊まりえ
モデル/俳優。1998 年 1 月 5 日生まれ、千葉県出身。2009 年ファッション雑誌「ニコプチ」でモデルデビュー。2012 年に女優デビュー後、数多くのドラマ・映画で活躍。主な出演作にドラマ『岸辺露伴は動かない』シリーズ、『君と世界が終わる日に』シリーズ、映画『シライサン』、『いなくなれ、群青』など。ドラマ『オクトー ~感情捜査官 心野朱梨』では主演を務めた。2023 年は、映画『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』、アニメ映画『ブラッククローバー魔法帝の剣』で声優としての出演も話題に。『Oggi』専属モデル、『MORE』レギュラーモデル。主演ドラマ『何曜日に生まれたの』は日曜よる10時より放送中。
飯豊まりえデビュー15 周年記念写真集
『かの日、』(小学館/3300円)
撮影/東 京祐 全200ページ、掲載写真は約180枚に及ぶ大ボリュームの写真集。巻末には公私共に親交の深い岡山天音さん、西野七瀬さんによる寄稿文も掲載している。
https://www.shogakukan.co.jp/books/09682420
撮影/五十嵐美弥(書籍静物) スタイリスト/コギソマナ(io) ヘア&メイクアップ/AYA(TRIVAL) 取材・文/前川亜紀
衣裳クレジット/ドレス73万9200円・パンプス14万8500円(ボッテガ・ヴェネタ ジャパン〈ボッテガ・ヴェネタ〉) TEL0120-60-1966 トップス・アクセサリーはスタイリスト私物。※すべて税込み