三井住友DSアセットマネジメントはこのほど、同社チーフマーケットストラテジストの市川雅浩氏がその時々の市場動向を解説する「市川レポート」の最新版として、「日本企業の資本コストや株価を意識した経営はどれくらい進んだか」と題したマーケットレポートを公開した。レポートの詳細は以下の通り。
東証の要請への取り組みなどを開示したのは、集計対象となったプライム市場上場の企業で20%
東京証券取引所(以下、東証)は8月29日、11回目となる「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議」を開催した。今回の会議では、東証が3月31日に要請した「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」について、上場企業による開示状況の集計結果が公表された。集計は3月期決算企業を対象に、7月14日時点のコーポレート・ガバナンス報告書などの内容に基づき行われた。
開示状況をみると、プライム市場に上場する1,235社のうち、東証の要請を受けた取り組みなどを開示したのは20%(242社)、検討中と開示したのは11%(137社)、記載がなかったのは69%(856社)だった(図表1)。また、スタンダード市場については、同市場に上場する887社のうち、取り組みなどを開示したのは4%(32社)、検討中と開示したのは10%(88社)、記載がなかったのは86%(767社)となった。
プライム市場では低PBRで時価総額が大きい企業の開示進展、開示資料は中期経営計画など
次に、プライム市場に上場する1,235社について、株価純資産倍率(PBR)と時価総額の水準別にみたところ、PBRが低く時価総額が大きい企業ほど開示が進展している一方、PBRが高く時価総額が小さい企業ほど開示が進展していないことが確認された。具体的には図表2の通りで、取り組みなどの開示は、PBR1倍未満かつ時価総額1,000億円以上では31%、PBR1倍以上かつ時価総額250億円未満では8%となっている。
さらに、プライム市場で取り組みなどを開示した242社について、開示書類を検証した結果、中期経営計画が33%、決算説明資料が29%、コーポレート・ガバナンス報告書が23%、統合報告書(財務情報に加え社会的責任など非財務情報をまとめた報告書)が5%、ウェブサイトが5%となった。現時点では、中期経営計画や決算説明資料による開示が多いことがわかる。
企業の取り組みなどの開示はまだ進展余地大、海外勢の日本株の見直しが続くかは企業次第に
また、プライム市場で取り組みなどを開示したPBR1倍未満の159社は、資本収益性や市場評価の改善に向けた取り組み内容として、成長投資や株主還元の強化、サスティナビリティ(持続可能性)への対応、人的資本投資、事業ポートフォリオ(事業構成)の見直しなどを挙げていた。そして、159社のうち、自己資本利益率(ROE)8%以上の企業に多くみられたのは、IR(投資家向け広報)の強化となった。
今回、東証が公表した集計結果により、企業の資本コストや株価を意識した経営への取り組みは着実に進展していることが明らかになった。ただ、取り組みなどを開示した企業の割合は、プライム市場で20%、スタンダード市場で4%にとどまっており、まだ進展の余地は大きい状況だ。この先、開示が増えていけば、海外投資家による日本株の見直し買いは続くと思われるが、それが実現するか否かは企業次第といえる。
出典元:三井住友DSアセットマネジメント
構成/こじへい