MONTBLANCを愛した文豪たち
1906年、ドイツ・ハンブルグの文具店の店主、銀行家、エンジニアの3人によって誕生したのが「モンブラン」です。なかでも1924年に誕生した「マイスターシュテュック」は万年筆の名作として世界中で大ヒットし、日本でも三島由紀夫(1925-1970)や開高健(1930-1989)が愛用したことで知られています。
1950年代には数多ある万年筆ブランドのなかでも最高峰といわれるようになり、世界中の調印などの重要な場面で「モンブラン」が採用されるようになります。
アルプスのモンブラン山の雪をモチーフにした「ホワイトスター」は、シンボルマークとして今日でも魅力を放ち続けています。
ONOTOを愛した文豪たち
1820年代にイギリスのデ・ラ・ルー社が輸出向けに製造した万年筆が「オノト」です。
日本では1907年から丸善が輸入を開始。インクフローの書きやすさが人気を博し、
夏目漱石(1867-1916)がいち早く使い始めたことでも有名です。
その他にも幸田露伴、菊池寛、北原白秋などがこぞって愛用したことでも知られます。
1958年にはスコットランドの労働闘争により万年筆の製造が中止しましたが、2004年に再度復活して現在に至ります。
万年筆を使う魅力
万年筆を使う魅力には下記のような理由があるのではないでしょうか。
1. 書き心地の良さ
万年筆は滑らかな書き心地が特徴で、文字を書く行為そのものが楽しくなります。文字が紙に浮かぶような感覚は、書くことへの喜びを高め、創造的な気分を引き起こします。
2. 芸術的な価値
万年筆は多彩なデザインがあり、その外観も美しさを追求しています。人々は自分の個性に合ったデザインを選び、所有することで特別な感覚を得られるとともに、所有欲が刺激されます。
3. 創造性を刺激する道具
滑らかな書き心地や個性的なデザインは、創作活動においてアイディアを思考から紙に移す過程を楽しく刺激します。これが文豪たちにとっても重要な要素でした。
4. 物語との結びつき
多くの文豪たちは、自分の万年筆と共に数々の作品を生み出しました。それゆえ、万年筆には彼らの物語や感情が詰まっており、所有することでその一端を共有するという独特な魅力があるのではないでしょうか。
5. 一生モノという安心感
万年筆には一生モノという安心感があります。たとえば長年使うなかで、キャップの緩みやペン先が曲がるなどの多少の不具合があっても、修理することが可能です。しっかりとメンテナンスすることで、常に良い状態を保つことができます。
またペン先は金でできており、これも捨てられない理由だといわれています。
6. 豊かな筆記体験
万年筆はインクの流れをコントロールする技術が求められますが、その分、使い手の技術や熟練度によって独自の筆記体験を得ることができます。これは愛用者にとっての楽しさであり、次第に自分だけの1本になる面白さがあります。
7. 伝統と革新の融合
万年筆は時代とともに進化し続けてきました。その伝統的でアナログな要素と、最新のテクノロジーが融合したメカニカルな製品は、時代を超えて幅広い世代の人々に魅力を持って受け入れられています。
おわりに
万年筆が人々を魅了する要因は、その書き心地の良さや個性的なデザインだけでなく、所有することによって得られる美的・創造的な満足感や物語との結びつきも大きな要因です。
文豪たちもその魅力に惹かれ、万年筆を通じて自分自身や世界との対話を深めました。
万年筆が彼らの創作や内面の表現に深く関わっていたことが伺えます。
洗練されたデザイン、滑らかな書き心地、そして個性を反映する多様なモデルの存在が、これらの文豪たちを魅了し、その作品を豊かにしました。
万年筆は単なる筆記具を超えて、彼らの思想や感情の一部となり、今もなお多くの人々の心を魅了し続けています。
また効率だけを求めるのではなく、ときに手書きで書く大切さに気付かされることも、万年筆の魅力なのかもしれません。
これで今回のアイデアノミカタ「万年筆」はおしまいです。
次回もお楽しみに!
文/スズキリンタロウ (文筆家)