言葉の中には正式な言い方よりも、略語の方が広く知られているものが少なくない。「断トツ」もそんな言葉の一つだ。テロップやキャッチコピーなどで見慣れていても、何の略語なのかはよく知らないという人も多いはず。
そこで本記事では、「断トツ」の正式な表現や言葉の由来、いつから使われているかといった言葉の歴史、誤りがちな使い方などについて解説する。
「断トツ」とは
「断トツ」は「断然トップ」の略語。「断然」が付いていることからもわかるように、2番目以下を大きく引き離して「トップ(英:top、首位、1位)」の状態であることを意味する。
なお、「断トツ」を表記する際は、「断然トップ」をそのまま略し、漢字とカタカナで「断トツ」と書く場合もあれば、音だけを拾って「ダントツ」とすべてカタカナ表記する場合もある。
「断トツ」が使われるようになったのはいつから?
日本語と英語が合わさった表現からも分かるように、「断トツ(断然トップ)」は、比較的新しくできた言葉だ。「断トツ」の歴史を見てみると、1963年(昭和38年)に出版された石原慎太郎の小説『死のヨットレース脱出記』の作中で「ダントツ」が使われ、その後、『日本語大辞典 第2版』に用例として挙げられている。
また、1974年発行の『三省堂国語辞典 第2版』にも「断トツ」が登場しており、昭和の中期から後期にかけて知名度が上がっていった言葉と考えられる。
現在は「トップ」の意味が薄れ、誤用例も増えている
略す前の「断然トップ」よりも、略語である「断トツ」の方が有名になったため、本来の意味から離れた誤用が見られるのも「断トツ」の特徴だ。
例えば、「断トツの最下位」という表現は、「断トツ」そのものが「1位」や「首位」の意味を持つため、「最下位」と合わせると意味が矛盾する。言葉の由来を知らないと犯しがちな間違いなので注意しよう。
また、「断トツ1位」「断トツの首位」「断トツTOP」などの表現も、もともと「1位」「首位」の意味を持つ「断トツ」に、さらに「1位」や「首位」という言葉を合わせているため、重言(二重表現)となる。こちらも多い間違いなので、誤用表現として覚えておこう。
「断トツ」の使い方や類語、言い換え表現は?
「断トツ」は、昭和中期から令和の現在まで使われている言葉で、世代を問わず知名度が高い。しかし、略語のため、本来はくだけた表現であり、ビジネスや葬祭といったフォーマルな場面で使うと、相手によっては違和感を覚える場合もあるため注意したい。
親しい相手との日常的な会話で使う分には問題ないが、改まった場所で「断トツ」に類する意味を伝えたい場合は、類語や言い換え表現を押さえておくと役立つはずだ。
「断トツ」を使った例文
これまで見てきた通り、「断トツ」は、複数の競争相手の中で他を大きく引き離していることを表現したい場合に使う言葉だ。例えば、得点やタイムを競うスポーツ、学業成績、売上やシェアなど、競う相手がいる場面で飛び抜けている人(物)に対して使うと良いだろう。
なお、基本的には、数字で比較できる分野との相性が良いが、能力や魅力といった数値化できないものに対しても使われる場合がある。
【例文】
「彼女の得点数はチームの中でも断トツだ」
「国語の成績はひどいものでしたが、数学の成績は五教科で断トツでした」
「競合他社の製品と比較したところ、業界シェアが断トツなのはA社の製品のようです」
「彼は親切だったので、クラスの男子の中でも断トツの人気があった」
「合唱部に入部した当初から、彼女の歌唱力は断トツだった」
ビジネスでも使える「断トツ」の類語や言い換え表現
「断トツ」そのものは、言葉のニュアンスとして、ややくだけた部類に入るため、フォーマルな場面で使いたい場合は、「断トツで」の代わりに「郡を抜いて」「頭一つ抜けて」などを使うようにしよう。
その他、「断トツ」の類語・言い換え表現には、以下のような言葉がある。
・図抜けた
・ずば抜けた
・飛び抜けた
・ひときわ目立った
・抜きん出た
・ぶっちぎりの
・圧倒的な
・圧勝
・独走
・抜群の
・向かうところ敵なしの
・他の追随を許さない
文/編集部