新しいカラス「ミヤマガラス」の登場
都市の生態系の頂点がヒトとカラスだったところに、じわじわと猛禽類が進出し、都市は今や「ヒトとカラスと猛禽」とが鼎立する時代を迎えた。一方で、カラスの世界も様変わりしつつある。実は、最近、これまでみられなかったカラスの仲間が首都圏の周辺に進出し、増加しつつあるのだ。
日本に生息するカラスの仲間は6種類知られている。このうち、国内に広く分布しているのはハシブトガラスとハシボソガラスである。ハシブトガラスは、くちばしが太くて声が「カーカー」と澄んでいて、都心のビル街や郊外の森林などに生息する。一方、ハシボソガラスは、くちばしが細く、「ガーガー」と濁った声でなき、郊外の田園地帯に生息する。
唐沢先生らの調査によると、これまで東京都心部はほとんどがハシブトガラスの生息地だったが、ハシボソガラスが徐々に都心に進出しつつあるという。
さらに、関東平野で急増しているのがミヤマガラスである。くちばしの基部(付け根)が白く、鳴き声も「カラララ」と鳴く。関東地方では、1998年頃から冬の水田地帯で越冬するようになり、現在は、千葉県、茨城県、栃木県、埼玉県、神奈川県など、都心を取りまくように水田地帯で越冬するようになった。
水田地帯の電線にとまるミヤマガラス(くちばしの基部が白い)(唐沢孝一撮影)
このミヤマガラスの群れの中には、さらに小型のコクマルガラスが混じっていることがある。大きさはキジバトくらい。「淡色型」と「暗色型」があり、淡色型は白黒のパンダ模様で、羽数が少ないことから珍鳥として人気がある。
長年にわたり埼玉県内のカラスの動向を調べている山部直喜さんらが2018年に越谷市内の某神社で行ったカラスのねぐら調査によれば、ミヤマガラス1100羽、コクマルガラス約40羽を記録し、年々増加傾向にあるらしい。今後、東京都心に進出してくるのかどうか、興味深いものがある。
ミヤマガラス (右側の2羽)とコクマルガラス(左側の2羽)(撮影:唐沢孝一)
猛禽の登場と第三のカラス、都会での野鳥観察に新たな楽しみが増えてきた。東京都千代田区にある小学館ビルの屋上でも、ハヤブサの姿が確認されている。唐沢先生の新刊書「都会の鳥の生態学」(中公新書、定価1050円+税)では、こうした都会での野鳥観察の楽しみ方も、教えてくれる。
インタビュー 唐沢孝一先生
1943年群馬県生まれ。東京教育大学(現・筑波大学)理学部卒業。都立高校の生物教師のかたわら、都市鳥研究会代表(現顧問)、NPO法人自然観察大学学長。野鳥をはじめ昆虫や植物の生態を研究し、自然観察会を主宰し講師をつとめる。
「カラサワールド」
文/柿川鮎子