新型コロナ禍の影響は人々の生活だけでなく、野生動物にも大きな影響を与えた。特に都心部ではカラスの個体数が激減した。飲食店から出る生ゴミが減り、それを食物として生きてきたカラスが数を減らしたが、どうもそれだけではなさそうだ。
「カラスはどれほど賢いか」(中公新書)で都会のカラスの生態を紹介したNPO法人自然観察大学 学長の唐沢孝一先生が、このほど「都会の鳥の生態学 カラス、ツバメ、スズメ、水鳥、猛禽の栄枯盛衰」(中公新書、定価1050円+税)を発刊した。本の中でカラスの個体数減少について、コロナ禍に加えて、猛禽類の都心への進出を指摘している。
「都市生態系の頂点に立っているカラスですが、ここ数十年、猛禽類の都心部への進出は著しいものがあります。都心における猛禽の比率がじわじわと増すにつれ、都市生態系の頂点に立つカラスとの確執は激しさを増すばかりです」と言う。
都会にやってきた猛禽類
長年にわたり都市鳥研究会代表(現・顧問)を務め、都会の鳥を研究してきた唐沢孝一先生によると、都内でよく観察される猛禽はハヤブサ目のハヤブサ、チョウゲンボウ、タカ目のオオタカ、ツミの4種。現在、公園や街路樹、鉄橋などで繁殖が確認されている。また、フクロウ類(フクロウ、オオコノハズク、アオバズクなど)も都内の緑地で繁殖が確認されている。「猛禽類がこれまで都会の生態系の頂点に君臨してきたカラスの地位に迫っている」と、唐沢先生。
「ハヤブサは都市に適応した代表的な猛禽です。東京だけでなく、ロンドンやパリ、ニューヨークでも繁殖しています。自然界ではハヤブサは、岩場などの環境で高度差が200~300メートルもある高所から急降下し、眼下の獲物を捕獲します。都市の高層ビル群も落差が大きく、自然の岩場の『代替環境』として最適の生息地と言って良いのです」。
2016年には六本木ヒルズの54階でハヤブサの若鳥も発見されている。大阪府ではもっと以前に、2004年に大阪府和泉大津市のホテルの屋上で産卵・繁殖しているのが確認された。また、小型のハヤブサの仲間のチョウゲンボウは1980年代から各地の都市環境に広く進出している。
唐沢先生によると、「オオタカ以外に、ノスリ、ハイタカ、ツミなどのタカ類も増えています。東京都心ではこの5~10年の間、ハシブトガラスが減少するのと反比例するようにタカ類の繁殖が目立ってきました。
東京23区内でオオタカの営巣地を調査したところ、2022年2月現在で27区市、合計47カ所で繁殖しており、東京23区内では杉並区、練馬区、板橋区、葛飾区などの13カ所、都心部では山手線内で5カ所の営巣が確認されました。今後益々増加していきそうです」。
タカ類が増えている理由として唐沢先生は1)都心部の緑地で高木が育ち、タカ類の営巣に適した木が増えたこと、2)ライバルのカラスが減少したこと、3)エサとなるドバトやヒヨドリなどの都市鳥が増加したこと、の3つを挙げている。