〇これからの経営に求められる「デカップリング」と「炭素生産性」とは
こうした潮流の中、これからの経営に求められる考え方として「デカップリング」と「炭素生産性」がキーワードになってくる。
従来のビジネスモデルでは、売り上げが伸びるほどCO2の排出量も上がるといった、経済成長とエネルギー消費が連動していた。双方を切り離してCO2の排出量や環境負荷を下げながら経済の価値を上げていく、デカップリングモデルの実現がこれからの経営のあり方だと考えている。
デカップリングモデルのKPI(重要業績評価指標)になるのが、排出量あたりの利益という炭素生産性という考え方。分母がCO2の排出量、分子がGDP・付加価値で、いかに分母を下げながら分子を最大化させていくのかということが、これからの重要な経営指標になる。
環境省が定義する「サプライチェーン排出量」は、自社内における直接的な排出だけでなく、自社事業に伴う間接的な排出も対象とし、事業活動に関係するあらゆる排出を合計した排出量を指す。サプライチェーン排出量はスコープ 1、2、3の合算で、自社以外の間接排出の部分であるスコープ3排出量に多くの企業が頭を悩ませている。
今年、脱炭素DX研究所が日経225の企業を対象に行った調査では、スコープ3が全体の9割以上を占めていた。スコープ3の内訳をみると、小売とか食品業界ではカテゴリー1といわれる仕入れ部分の購入した製品・ サービスが多くなっており、電気機器ではカテゴリー11で販売した製品の使用の排出量が一番多くなっていた。
スコープ3の削減には、事業の中核になるプロダクトやサービス単位での削減が不可欠。例えば、カテゴリー1の仕入れの部分では、原材料の調達を製品単位ではどう考えていくのかが重要なポイントになり、カテゴリー11の製品の使用段階では、そのプロダクトの使用における排出量をどう下げていくのかが設計や開発のテーマになると思う。
排出やリサイクルを担当する部門がなく組織改革が必要だったり、縦割りになっていて部門を超えての取り組みが難しいなど、組織全体の風土や意識の変革、部門を超えた共創や、サプライヤー・顧客との共創でイノベーションを起こすためにどうしたらよいかと頭を悩ませる企業が多い。
これからはプロダクトやサービスのライフサイクル全体で再設計が必要になる。オランダ・マーストリヒト大学のヤン教授が開発したCircularity DECKという 5つの戦略と3つの階層から成る事業アイデア創出ツールは、共創型で包括的なクリエイティブ、アイデア創出、意識改革にも有効なツール。弊社でもこのツールに近い、ライフサイクル全体で廃棄量を下げながらかつ価値が高いサービスを作っていくアイデア創出なども行っている。
〇欧州で注目されるデジタル・サステナビリティ
デジタルのサステナビリティを考えていく動きが欧州で注目されている。デジタル・サステナビリティには2つの意味があり、「DX for Sustainability」はデジタル技術を活用してビジネスでサステナビリティを追求していくというもの、「Sustainable DX」はデジタル自体にサステナビリティを追求していくというもの。
Sustainable DXが提唱される背景には、世界人口の53%にあたる41億人がインターネットを利用しているデジタル社会の現実がある。デジタル活動におけるCO2排出量は世界の温室効果ガス排出量の3.7%を占め、2025年までに温室効果ガス排出量は2倍に増えると想定されている。
その中でサステナブルウェブデザインとして、環境負荷を少ないデザイン・設計にしていくことが注目されており、弊社でも年末挨拶のサイトなどをそうした思想で設計している。
単純にシンプルなデザインを追求するというのではなく、先ほどの炭素生産性と同じように、「炭素当たりの UX 向上」が重要になる。
その他にも、デジタル業界全体のサステナブルとして、ウェブデザインメディアとか、広告のサプライチェーン全体のCO2排出量を減少するようなサービスも出てきており、今後、注目すべき考え方だと思っている。
【AJの読み】気候変動はビジネスにおいても脅威になっている
気候変動問題が深刻化する中、世界で脱炭素へ向けた対応が加速している。日本でも今年5月にGX推進法が成立し、二酸化炭素の排出量に応じて企業などにコスト負担を求める「カーボンプライシング」が本格的に導入されるなど、企業にとっても温室効果ガスの排出削減は大きな課題だ。
メンバーズでは、企業、製品単位の温室効果ガス排出データをもとに売上の向上やコスト削減を実現する「脱炭素DXソリューション」の提供を開始した。
脱炭素DX研究所の調査でも明らかになった、企業の温室効果ガス排出量の大半を占める間接的排出の「スコープ3」の領域において、脱炭素と持続的な利益向上を実現する9つのソリューションをラインナップしている。
文/阿部純子