■連載/阿部純子のトレンド探検隊
企業にとって温室効果ガスの排出削減は大きな課題
気候変動は環境問題の枠を超えて、いまやビジネスの脅威となっており、持続可能なビジネス成長のためには、温室効果ガス削減を実現する脱炭素経営が重要になってきている。
政府もGX(グリーントランスフォーメーション)を通じて脱炭素、エネルギー安定供給、経済成長の3つを同時に実現するべく、今年5月には「GX推進法」「GX脱炭素電源法」が成立。今後10年で150兆円超の官民GX投資の実現を目指しており、脱炭素経営かがさらに加速されると思われる。
デジタルビジネス運用を手掛ける「メンバーズ」は、デジタルの力で企業と社会の脱炭素社会を目指す「脱炭素DX」を推進している。同社の脱炭素DX研究所 所長の我有才怜氏が脱炭素経営の潮流について解説した。
〇気候変動・脱炭素をめぐる世界の潮流
世界経済フォーラム「ダボス会議」においても、今後10 年のグローバルリスクとして「気候変動への適応の失敗」「異常気象」「生物多様性の喪失」と、気候変動関連がトップ 3に入り、「地球の限界(プラネタリー・バウンダリー)」研究でも不安定な領域に入っていることが指摘され、経済のリーダーたちが気候変動を一番重要なものとして捉えている。
気候変動は「気候危機」とも呼ばれるが、この危機は健康、福祉、医療の問題とも捉えることができる。医学誌「Lancet Countdown 2022」では、気候変動は人類の健康とウェルビーングの基盤を揺るがすような脅威であり、この脅威に対して人類は脆弱性が高まっているという指摘も出ている。
また、気候変動は安全保障の問題としても捉えられている。グテーレス国連事務総長や各国の首相が、気候変動により紛争の引き金となったり、水や食料をめぐる競争が激化すると発言しており、気候難民は紛争難民の3倍を超えるという報道もある。
気候変動はビジネスにおいても非常に脅威であり、環境問題の次元を超えている状態だと感じている。逆に言えば、気候変動に対応することは企業にとってビジネスを持続可能にさせるための機会でもある。
日本でもGX推進法が成立し、官民連携で大きな多額の投資が行われることで、産業構造の転換がこれから大きく進むと思われ、企業にとっても成長のチャンスになり得ると考えられる。
EUはバイルバッテリーの回収率を2030年末に73%まで引き上げるために、ユーザー任せではなく回収できるようなビジネスモデルに変えるため、材料調達からリサイクルまで、バッテリーのライフサイクルに関わる情報を記録する「バッテリーバスポート」の実装を目指している。
米国では今年7月にニューヨーク州で、EUでもかなり議論があった「修理する権利」を保護する法律が発効。利用者が修理する権利を企業として保証しなければならないというもので、壊れにくい製品設計はもちろん、修理しやすい設計、修理できるようなノウハウを提供するオープンソースの考え方も求められている。すでにアップル社では修理キットの貸し出しや配布を始めている。
このように様々な規制や法整備が変わっていくと思われ、持続可能なビジネスの機会にするためには変革が必要になる。
この点ではDX化と似ていることが多く、DXは新たな価値を作り、ビジネスモデルの変換することで顧客体験を最大化するというのが重要な概念だが、組織の文化とか戦略とかプロセスを変革することが必要で、同じことが脱炭素にも言えると思う。