よく知っている言葉でも、思いもよらない読み方や語源を持っていることは珍しくない。「独擅場」は、そんな言葉の代表格だ。何も知らない場合は、ぱっと見て「どくだんじょう」と読む人が多いのではないだろうか。同じように見誤る人々が昔から沢山いたため、現在は「独擅場」ではなく「独壇場」のほうが知名度は高くなっている。
本記事では、「独擅場」の正しい読み方と言葉の意味、「独壇場」との違いについて解説する。
「独擅場」の読み方は「どくせんじょう」
独擅場の読み方は「どくせんじょう」。その人だけが思い通りにふるまえる場所や場面(シチュエーション)のことを指す。言葉の意味は、「独壇場(どくだんじょう)」とまったく変わらない。
「独擅場」の語源は「擅=ほしいままにすること」
「独擅場」に使われている「擅」は、「独り占めにする」「ほしいままにする」という意味を持つ漢字だ。読み方は「せん」となり、「だん」の読みは存在しないため、独擅場も「どくせんじょう」と読むのが正しい。意味もそのまま「ひとり(独)がほしいままにする(擅)場」となる。
「独擅場(どくせんじょう)」と「独壇場(どくだんじょう)」の違いは?
「独擅場」は、「独壇場」に押されて徐々にマイナーになっていった歴史を持つ言葉。
言葉としては「独擅場」のほうが先に存在していたが、「擅」の字を「壇」を見誤る人が多かったこと、また、言葉の意味においても「擅(舞台)」を使った「独壇場=ひとり舞台」という解釈に違和感がなかったことから、時代とともに「独壇場」を使う人が増えていったことが背景にあると言われる。
現在は「独壇場」のほうが一般的な言葉としてNHKなどの公共放送局や新聞でも「独壇場」が採用されている。
「独擅場」から「独壇場」への置き換わりはいつから?
国語辞典における両者の扱いによると、明治期には「独擅場」が優勢だったものの、昭和に入って以降、独擅場の項目に「独壇場」が誤用として登場しはじめ、昭和10年台後半には「独擅場のなまり」と説明されるようになった。徐々にではあるが、耳馴染みや覚えやすさによって言葉が変化していった実例と言えるだろう。
「独擅場/独壇場」と「土壇場」は違う?
「独擅場/独壇場」に字面の良く似た言葉に「土壇場(どたんば)」がある。意味は、「否応なく決断を迫られる最後の場面」や「進退きわまった状態」などを指し、「独擅場/独壇場」とはまったく異なるため注意したい。
土壇場は、昔、罪人を首切りの刑に処するために築いた土の壇(高台、舞台)が語源となっている。こちらも古い歴史を持つ言葉だ。
「独擅場/独壇場」の使い方や類語
「独擅場/独壇場」の意味を知っても、具体的にどう使えばよいかわからない人も多いはず。具体的な例文や類語を覚えておくと、必要に応じた使い方がわかるだけでなく、似た意味の言葉に言い換えることもできて便利だ。
「独擅場/独壇場」を使った例文
「北極は、極寒の気候に合わせて進化したシロクマの独壇場だ」
「先日の試合は、圧倒的なボールさばきを見せた彼の独壇場だった」
「吸収合併で業界トップシェアを獲得した企業が独壇場のように振る舞っている」
「独擅場/独壇場」の類語、言い換え表現
「独擅場/独壇場」と似た意味を持つ言葉には、「総なめ」「独り勝ち」「ひとり舞台」「完全制覇」「独走」などがある。いずれも競合の中でひとり抜き出ることを印象付ける言葉だ。ビジネスシーンで見聞きする場合も多いため、覚えておくとよいだろう。
「独擅場/独壇場」の英語表現
仕事や趣味などで英語に触れる機会が多い場合は、「独擅場/独壇場」の英語表現も知っておくと良いだろう。
「独擅場/独壇場」を英語で言うと?
英語で「独擅場/独壇場」を表現したい場合は、事業や市場に関する内容であれば「one’s monopoly(~の独占である)」が適当だ。
実力や能力について触れたい場合は、「hold an unchallenged position(比類のない地位にある)」や「be unrivaled(競争者がいない)」「have no peer(匹敵するものがいない)」などを使うと良いだろう。
文/編集部