マックトリガー
からだ自身にがんを治療させる細胞医薬の開発に世界で初めて成功し、新しいがんの治療法として提唱したのが九州大学大学院工学研究院の研究グループだ。メンバーのひとりである新居輝樹助教に注目の治療法「マックトリガー」について話を聞いた。
「薬ではなく、あくまで〝引き金〟です。我々が開発した細胞医薬は、がん組織にたどり着くと、がん組織に傷をつけます。その傷によりがん組織に炎症が起きて、私たちの身体にある様々な免疫組織ががんを異物と捉え、排除を試みるというメカニズムです」
通常、がんは正常な細胞から発生するため、免疫細胞にとっては「異物」と認識しにくい。そのため、免疫細胞からの攻撃を受けることなく成長してしまう。
がんを炎症組織に変化させるために着目したのは、我々の身体にあるマクロファージの性質だ。
「マクロファージはがんに集まる性質があります。そして、マクロファージは、環境によって姿を変える。そのユニークな性質を活用し、遺伝子を改変したマクロファージが〝マックトリガー〟です」
自分の免疫の力で治すきっかけにすぎないため、安全性が高い治療法として実用化に期待が高まる。
理論的にはどの部位のがんにも適用できそう。健康な臓器に影響せず、治療時の身体の負担が軽減されるならば、多くの人のがん治療に対するイメージが変わるかもしれない。
◆マックトリガーの治療イメージ
実際にマウスに投与したところ、がん細胞が少なくなっているところが確認され、副作用もほとんど出なかったという。
◆現在がん治療で使われている主な「薬物療法」
上記の薬物療法は、飲み薬や注射薬を用いてがん細胞を死滅させたり、がん細胞が増えるのを抑えたりする。
取材・文/田村菜津季