南極地域観測隊には観測部門と設営部門があり、様々な観測を支えるのが設営部門である。昭和基地には多い時で100名以上が滞在。うち30名は越冬隊として、1年を過ごす。隊員が生活するうえで欠かせないインフラの整備にも日本企業の技術が生かされている。ふたりの隊員に南極での仕事から得たものを聞いた。
【ヤンマー】発電システムの保守で隊員の生活を支える
ヤンマーパワーテクノロジー 特機事業部(第63次南極地域観測隊・越冬隊)
高木佑輔さん
2014年、第56次南極地域観測隊として南極へ。第63次でも設営メンバーとして2度目の参加を果たし、昭和基地の発電全般に携わった。
2回にわたる経験から「無停電」を実現!
生活や研究機器に必要な電力の供給はもちろん、基地内の暖房や水を作る造水まで、あらゆる面で生活を支えるのが、ヤンマーが製造するディーゼルエンジンだ。
「1983年に弊社のエンジンが昭和基地に採用されて以来、整備担当として、毎年社員が越冬隊に参加しています」と語るのは、昨年、第63次観測隊に参加した、ヤンマーパワーテクノロジー特機事業部に所属する高木佑輔さん。その主な仕事内容とは?
「毎日、朝と夜に定期的なエンジンの点検を1人で行なうのに加えて、500時間ごとの定期整備を担当していました。電気は、南極での研究や全隊員の生活を支える存在なので、日々の点検はエンジン音から些細な油漏れまで、とにかく念入りに確認していました」
これまでに2度、越冬隊に参加している高木さんだが、実は1度目の際に忘れられない大きな失敗があった。
「最初に越冬隊に参加した際、2台あるエンジンのうち1台が止まり、基地内で1時間ほどの停電が起きてしまって。当然、基地で行なわれていたすべての観測も止まり、全身から血が引く想いでした……。その失敗から、2回目の参加時には、『今回は無停電を目指そう!』と目標を定め、一度も停電を起こさずに済みました」
高木さんのように高い技術力を持つ社員が基地の生活を守る一方で、昨今、同社では熟練の技術者の不足が課題になっている。
「ヤンマーの強みは、長年の歴史で培ったノウハウを持つ熟練技術者たちの存在です。ただ、昨今は、熟練技術者の高齢化などによって、技術者不足が続いています。南極などでも安定した整備を行なうため、現在進めているのが、ウエアラブル端末やZoomなどのWeb会議システムを利用した遠隔の現場作業支援です。熟練の技術者が遠隔で指示をすることで、整備の質も向上するし、派遣された社員の負担も軽減できるはずです」
何十年にもわたって南極の隊員たちの生活を支えてきた発電技術。新たなツールを使って、その技術が継承され続けている。
基地内の発電棟に設置された、2台のディーゼルエンジン。現地に派遣されたヤンマー社員が、朝と夜2回チェックを行なう。
遠隔作業で使われるのは、ヤンマーエネルギーシステムが提供するウェアラブル端末「THINKLET®」(フェアリーデバイセズ社製)。