南極地域観測隊には観測部門と設営部門があり、様々な観測を支えるのが設営部門である。昭和基地には多い時で100名以上が滞在。うち30名は越冬隊として、1年を過ごす。隊員が生活するうえで欠かせないインフラの整備にも日本企業の技術が生かされている。ふたりの隊員に南極での仕事から得たものを聞いた。
【KDDI】観測データを送る基盤昭和基地の通信を守る
KDDI 官公庁ソリューション部(第63次南極地域観測隊・越冬隊)
三井俊平さん
新卒から約10年後、第63次越冬隊に志願。昭和基地内LAN設備およびインテルサット衛星通信設備担当。昭和基地滞在期間は2021年12月から2023年2月まで。
極地でのチーム運営は成功する組織の学びに
2005年から毎年1名、南極地域観測隊(越冬隊)に社員を派遣しているKDDI。設営班として昭和基地の観測データを日本に送信するなど通信環境の整備を担当している。同社の三井俊平さんは、第63次越冬隊として参加した。
「任務は昭和基地に設置されているインテルサット衛星通信設備などの保守です。衛星通信は気象状況に左右されやすいため、基地周辺や対向先の自社通信所の天気を確認し、観測活動への影響を最低限に抑えることに努めました」
昭和基地と日本の国立極地研究所は衛星通信回線で接続。また昭和基地では、観測に使われる建屋と基地内がネットワークで結ばれ、ネット環境が整備されている。この保守を担ったのが三井さんだ。
越冬隊員は約30名の少数精鋭集団ゆえ専門外でも支援し合うのが習わし。三井さんは、班を指揮する主任と出会い、成功する組織のあり方を強く実感したという。
「設営主任は理想のリーダーでした。メンバーに活躍の場を与え、こぼれたタスクを拾いフォローする。自身の業務をしっかりこなしながら、そうした姿勢でとがった技術職集団をまとめていったのです。おかげで私も約1年間、高いモチベーションを維持して臨めました。幅広い仕事体験、メンバーとの非常に高い結束力、異業種の人との関わりなど、南極での時間は価値あるものばかりでしたね」
KDDI総合研究所と国立極地研究所は22年11月、南極からの8K映像のリアルタイム伝送実証実験に世界で初めて成功。三井さんも同実験に参加した。23年度予定の実用化がかなえば、地球環境に関わる研究や教育の高度化につながる。
南極観測データを常時国内に伝送するためのインテルサット衛星通信設備。2004年に設置され、研究の進展や隊員の福利厚生の充実化を目的とした。