『巻繊汁』はよく知られている汁物の名前ですが、日頃あまり見かけない音読みが使われているため、正しく読めない人も多いでしょう。巻繊汁の読み方と併せて、由来や特徴についても紹介します。基本の作り方も参考にして、実際に作ってみましょう。
巻繊汁の正しい読み方
『巻繊汁』は何と読むのでしょうか?知らないと読むのが難しい漢字のため、正しい読み方を紹介します。どのような料理なのかについても確認しましょう。
「けんちんじる」と読む
巻繊汁の正しい読み方は『けんちんじる』です。『巻(けん)』と『繊(ちん)』は当て字ではなく、日常生活ではあまり見かけない常用漢字表外の音読みです。
巻繊汁は季節に関係なく食べられている料理ですが、具に根菜が使われる温かい汁物であるため、秋から冬の寒い時期に好んで食される場合が多いでしょう。節分など季節の行事で食べる地域もあるようです。
また、巻繊と名のつく料理には、『巻繊焼き』や『巻繊蒸し』などもあります。
元々は精進料理
巻繊汁は、精進料理が元になっているとされています。精進料理というと、近年は健康食としてのイメージが強いかもしれませんが、本来は仏教と密接に結び付いている料理です。肉や魚などを使用せず、野菜・豆類・海藻類・穀類など、植物性の食材のみで作られています。
巻繊汁は、ニンジン・ゴボウ・サトイモ・大根・豆腐・こんにゃくなどを煮込んだ料理です。肉や魚が使われていないところに、元々は精進料理だったという名残が感じられます。
ほかの汁物との違い
巻繊汁と似た汁物は複数ありますが、それぞれ特徴が異なります。例えば『豚汁』は、巻繊汁と具材や調理法が似ていますが、豚肉が使われている点が大きく異なります。また一般的に、豚汁の味付けはみそ味ですが、巻繊汁はしょうゆ味が一般的です。
佐賀県の郷土料理である『のっぺい汁』も、根菜を使う点は共通していますが、鶏肉が使われることが多い点や、片栗粉でとろみをつける点が違います。
鹿児島県が発祥の『さつま汁』も根菜を多く使う点は似ていますが、鶏肉を使うことやみそ味であるという違いがあります。
巻繊汁の由来
なぜ巻繊汁という名前がついたのか、気になっている人もいるのではないでしょうか?名前の由来には二つの説があります。由来を知ると歴史的背景が分かり、料理をより深く堪能できるでしょう。
鎌倉の建長寺で作られていた精進料理
巻繊汁は、神奈川県鎌倉市にある『建長寺』で作られていた精進料理に由来するという説があります。建長寺では、古くから『建長汁』と呼ばれる精進料理が食されていました。
建長寺の修行僧が日本各地に派遣されたことで、建長汁が全国に広まり、いつしか名前がなまって、巻繊汁と呼ばれるようになったという説です。
なお、豆腐を崩して入れている理由に関する逸話もあります。修行僧が誤って落としてしまった豆腐を、建長寺の初代住職が拾い集めて洗い、建長汁に入れたのがきっかけというのがその説です。
中国から伝わった汁物
中国から伝わった精進料理に由来するというのが、もう一つの説とされます。『普茶(ふちゃ)』と呼ばれる中国の精進料理の一種である『巻繊(けんちゃん)』が、日本語になったとするものです。
巻繊は油で炒めた細切りの大根やゴボウを湯葉で巻き、揚げたり蒸したりした料理を指します。それを禅僧が汁物にアレンジしたことから、『巻繊汁』と呼ばれるようになったという由来も語られています。
巻繊汁の基本のレシピ
巻繊汁は、自宅でも簡単に作れます。一度にたくさんの野菜類を摂れるため、野菜不足だと感じているときや、複数の料理を作る時間がないときなどにもおすすめです。
巻繊汁の材料
4人分の基本的な材料と分量の目安は、以下の通りです。
- ニンジン:40g(約1/4本)
- ゴボウ:45g(約1/4本)
- サトイモ:90g(約2個)
- 大根:100g(約5㎝)
- 豆腐:180g(約1/2丁)
- こんにゃく:200g(板こんにゃく約1/2枚)
- ごま油:大さじ1~1と1/2
- 顆粒の和風だし:小さじ2
- 水:5カップ
- 酒:大さじ2
- しょうゆ:大さじ1・1/2
- みりん:大さじ1
- 塩:小さじ3/4
上記に加えて、レンコン・シイタケ・油揚げ・ネギなどの具も合います。おわんに盛りつける際に、小ネギやゆでた絹サヤを使うと、見た目にも美しくなるのでおすすめです。だし汁は、めんつゆなどのだしつゆと水を合わせて作ってもいいでしょう。
巻繊汁の調理手順
調理の手順も確認しましょう。実際に作る前に全体の流れを確認しておくと、スムーズに調理ができるはずです。
- ゴボウを『ささがき』にし、水にさらす
- ニンジンと大根を約2mm幅の『いちょう切り』にする
- サトイモを約7mm幅の『輪切り』にし、沸騰したお湯で10分ほど下ゆでする
- 豆腐を水切りする
- こんにゃくをスプーンでひと口大にちぎり、沸騰したお湯で2~3分ほど下ゆでする
- 鍋にゴマ油を熱し、豆腐以外の具を固いものから順に炒める
- しょうゆ以外の調味料と水を入れ、一煮立ちしたらアクを取り、中火で約7分煮込む
- 豆腐を手でくずしながら入れ、しょうゆを加え、弱火で約1分煮る
下ゆでする材料は、サトイモとこんにゃくです。サトイモは下ゆでにより、ヌメりが取れて全体的に味が浸み込みやすくなります。こんにゃくは、アク抜きと食感を良くするためのひと手間です。さらに、包丁で切るよりもスプーンでちぎることで味が浸み込みやすくなります。
材料を煮込む時間は、好みの野菜の歯応えに合わせて調節しましょう。また調味料も、味をみながら調節するのがおすすめです。できあがってすぐよりも、冷めた後の方が味がしっかりなじみます。
構成/編集部