2. 【2023年8月公表】AI契約審査に関する法務省ガイドライン
法務省大臣官房司法法制部は、2023年8月1日にAI契約審査に関するガイドラインを公表しました。
参考:AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供と弁護士法第72条との関係について|法務省
2-1. 法務省ガイドラインの目的
法務省ガイドラインは、AI契約審査に関する法律上の取り扱いにつき、予測可能性を高めることを目的としています。
法務省ガイドラインの公表により、弁護士法72条の関係において適法・違法のラインが明確化されたため、今後のAI契約審査サービスの開発の活発化・安定化が期待されます。
2-2. 法務省ガイドラインによる非弁行為該当性の判断基準
法務省ガイドラインでは、AI契約審査サービスが非弁行為に該当するか否かを判断する際の基準として、以下の4点を示しています。
①報酬を得る目的があるか
②その他一般の法律事件に当たるか
③鑑定・その他の法律事務に当たるか
④サービスの利用者が弁護士または弁護士法人か否か
2-2-1. 報酬を得る目的があるか
AI契約審査サービスの提供によって報酬を得る目的がなければ、非弁行為には当たりません。
ただし法務省ガイドラインでは、「報酬」の概念が広く解されている点に注意が必要です。たとえば、無償でサービスを提供していても、有償サービスの契約に誘導する場合や、他の事業者からキックバックを受ける場合などは、報酬を得る目的があると判断されます。
2-2-2. その他一般の法律事件に当たるか
非弁行為に当たるのは、「訴訟事件……その他一般の法律事件」に関するものに限ります。AI契約審査サービスが「その他一般の法律事件」に関するものでない場合は、非弁行為に該当しません。
「その他一般の法律事件」の意義については見解が分かれていますが、法務省ガイドラインでは、通説的見解と考えられる「事件性必要説」を採用しています。
※事件性必要説:訴訟事件等に準ずる程度に、法律上の権利義務に関し争いがあり、または疑義を有する事件に限るとする説
たとえば、紛争当事者間で締結する和解契約等の作成を支援するサービスは「その他一般の法律事件」に関するものに該当しますが、企業法務における通常の業務に伴い締結される契約については、事件性がないと考えられる場合が多いことが指摘されています。
2-2-3. 鑑定・その他の法律事務に当たるか
非弁行為に該当するのは「鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務」とされており、AI契約審査については「鑑定」または「その他の法律事務」に当たるかどうかが問題となります。
鑑定:法律上の専門的知識に基づき、法律的見解を述べること
その他の法律事務:法律上の効果を発生・変更等する事項の処理
法務省ガイドラインでは、AI契約審査サービスを①作成業務支援②審査業務支援③管理業務支援の3つに分類し、それぞれについて「鑑定」または「その他の法律事務」に当たる例・当たらない例を示しています。
総じて、個別具体的な処理やリスクにつき、AI主導で助言を行う場合は「鑑定」または「その他の法律事務」に当たると判断されます。
これに対して、あらかじめ登録されたひな形やチェックリストとの対照や、形式的な入力事項の反映などは、「鑑定」または「その他の法律事務」に該当しないとされています。
2-2-4. サービスの利用者が弁護士または弁護士法人か否か
弁護士が自ら精査し、必要に応じて契約書等を修正する方法でAI契約審査サービスを用いる場合には、サービス提供行為が非弁行為に該当しないとされています。
弁護士または弁護士法人が最終チェックを行うのであれば、無資格者による非弁行為を禁止する弁護士法72条を適用する必要がないためです。
3. まとめ
AIによる契約審査は、法務の領域において今後も急速に普及していくと予想されます。
今回公表された法務省ガイドラインは、AI契約審査のさらなる普及および利便性の向上を後押しする可能性があり、引き続き今後の業界動向を注視すべきでしょう。
取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
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