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世界の水問題解決に挑む次世代インフラ「小規模分散型排水循環システム」を利用した「WOTA BOX」「WOSH」が誕生した背景

2023.09.11

世界中の水問題の解決に向けて開発された「WOTA BOX(ウォータボックス)」、「WOSH(ウォッシュ)」。WOTA BOXは、排水の98%以上を再生利用できるシステムだ。災害時の避難所で直面する水不足を解消することを目的に開発され、少量の水で多くの人の衛生環境の確保を実現した。WOSHは、手洗いに特化した水循環型ポータブル手洗いスタンド。商業施設やオフィス、医療施設などで利用されている。

今回は、WOTA BOXとWOSHを開発したWOTA株式会社 代表取締役CEOの前田瑶介さんに、同プロダクト開発の背景と水問題の解決に対する想いについてお話を伺った。

*本稿はインタビューから一部の内容を要約、抜粋したものです。全内容はVoicyから聴くことができます。

WOTA=水問題を構造的に解決するために存在する企業

WOTA BOXとWOSHを開発し、世界の水問題の解決に挑むWOTA株式会社のパーパスについて前田さんは次のように語る。

「WOTAは水問題を解決することを目的とした会社です。水問題は、何十億円、何百億円の費用を掛けて上下水道を整備すれば解決できる部分もあるかもしれませんが、それは容易ではありません。WOTAが目指している水問題の解決とは『誰もが、どこでも、水問題を解決できる状態』にすること。そうした普遍性のあるプロダクトを作ることを、会社のパーパスにしています」(前田さん)。

誰もが水問題を解決できる仕組みとして開発したのが、「小規模分散型水循環システム」。人がいるところであれば、どこにでも存在する「人間の生活排水」に目をつけた点が最大の特徴だ。

「水不足は水源があれば解決できますが、近年は、世界各地で川の水等が枯渇しつつあります。一方で、人間の生活排水は、人がいる限り必ず存在します。そこで、『人間の生活排水を再資源化できれば水問題はなくなる』と考え、創業からこれまでの9年間、新しい給水方法として、人間の生活排水を水道の水よりも綺麗なレベルまで再生し、安定的に循環利用できるようにする仕組みの開発に取り組んできました」(前田さん)。

まずは日本における身近な水問題の解決に挑む

WOTA BOXとWOSHを開発したのは、世界の水問題を解決するための一つの手段だと前田さんは語る。

「水問題を解決するためには、国や政府に協力をしてもらう必要があります。ただ、実績も信用もない1年目の会社が国に対して『水問題を解決できます、一緒にやりましょう』と働きかけても動いてもらうことは難しい。そこで、まずは身近で重要な水問題を解決しながら、技術や組織を磨き、実績を作ってきました。そのためのプロダクトがWOTABOXとWOSHです」(前田さん)。

前田さんはWOTABOXとWOSHの特徴について次のように話す。

「WOTABOXの目的は、災害時に誰もが水に困らない風景を作ること。通常は100Lの水で入浴できるのは2人程度ですが、WOTABOX を活用すれば水を補給することなく100人ほどの入浴が可能です。現在は災害発生時の対応を担う自治体を中心に、普及に取り組んでいます。WOSHは、WOTABOXを手洗い用に特化させたプロダクトで、水道がなくてもどこでも手洗いができます。元々は災害時の活用を想定していましたが、新型コロナウィルス感染拡大のタイミングとも重なり、商業施設やオフィスなどで導入いただいています」(前田さん)

誕生のきっかけは東日本大震災の避難所における水問題

WOTA BOXとWOSHの開発に至った背景について、前田さんは次のように振り返る。

「私は東日本大震災が起きた前日、2011年3月10日に上京してきました。当時、大規模な災害が起きた際、衛生的な環境を作ることがいかに難しいかを実感したのです。津波からは生き延びられたのに、避難所で亡くなるということも起きていました。そうした状況を目の当たりにして、避難所の水問題を解決するプロダクトの開発に取り組もうと決意したのです」(前田さん)。

その後、2018年7月の西日本豪雨の際には、WOTABOXの試作機を避難所で活用し、前田さんは大きな手応えを感じたという。

「水を使えることが当たり前の日本で、単に水を使えるだけで、被災されている方にはとても喜んでいただけます。2週間シャワーを浴びられていなかった方々が、泣いたり笑ったりしながらシャワーを浴びている様子が印象的でしたね。日本の被災地で水問題が解決できないのに世界の水問題を解決できるわけがないと、何よりの最優先事項として取り組もうと決意しました」(前田さん)。

「難しいことはできる」という信念

前田さんは「できないと証明されていないことは、できるということ」という信念について次のように語った。

「私たちは『難しいことはできる』という信念をもっています。できないと証明されていないことはできると考え、物理的に構想可能なのであれば、まずやってみるという姿勢です。その中で技術的な課題が持ち上がってくるため、それに優先順位をつけて徹底的に解決してきました」(前田さん)。

WOTA BOXを開発中の2018年、避難所で試作機を活用した際は、まだプロダクトとオペレーションが確立できておらず、メンバーが昼夜問わず張り付いて運用を行っている状態だったという。そのような状況で、前田さんは「民主化」の必要性に気付いたという。

「私たち、WOTAでなければできないことを増やすと、水問題の解決が遅れてしまうということに気づいたです。プロダクトや事業の運用を、WOTA以外の人ができるような仕組みを創る必要がありました」(前田さん)。

幼少期の原体験から得た思考

水問題の解決に対し、強い想いを持って取り組む前田さん。そうしたマインドを持つに至った背景には、幼少期の経験が影響を与えているという。

「私は幼少期を山の中で過ごしました。生物学と哲学に興味を持ち、自分が気になる生物を研究することに熱中していました。例えば、蜘蛛の糸の引っ張り強度を知りたいと思った時には、研究方法をインターネットで徹底的に調べました。また、世界中の大学の先生や研究者の方にメールをすれば教えてくれたのです。教わったことはすぐに実践しました。調べる目的を果たせれば何でも良いので、身の回りにあるものを加工して実験器具をつくっていましたね。インターネットと物理的な問題解決方法があれば、基本的にできないことはないと考えるようになりました」(前田さん)。

環境問題解決に対する自身の仮説が証明された

WOTA BOXとWOSHというプロダクトを通じて、環境問題を解決する方法について手応えを得られたと前田さんは次のように振り返る。

「物理的な問題の解決の方法は『製造業型』か『建設業型』に大別されると思っています。そして、環境問題を解決する際には、『製造業型』のアプローチが良いという仮説を持っていました。つまり、既存の上下水道の改善にアプローチする(建設業)のではなく、WOTA BOXやWOSHなどのプロダクトを開発し(製造業)、世界の隅々まで普及させるアプローチの方が、良いのではないかという仮説です。製造業型であれば、普及台数や利用者数が増え、データが蓄積すればするほど、プロダクトの改善が進み、コストを下げることができるようになります。コストが下がれば、プロダクトをより早く普及できるため、問題の解決が早まる。このように、やはり環境問題に関しては『製造業型』のアプローチで解決したいと思っています。WOTA BOXとWOSHというプロダクトを通じて、その手応えが掴めました」(前田さん)。

一般家庭向けの商品開発でWOTAがより身近な存在に

現在、災害時の避難所での利用が主となっているWOTA BOXと、商業施設や病院・オフィス等で利用されているWOSHを展開しているが、今後は住宅向け水再利用システムも開発中だという。

「現在開発中のプロダクトは、生活排水と少量の雨水を水源にし、一般家庭向けの安定的な水供給を可能にする住宅向けの小規模分散型水循環システムです。このシステムがあれば、少なくとも人が生活する上で水に困ることはなくなり、ゆくゆくは単位水量あたりの給排水コストを上下水道のコストよりも安くすることができると考えています。人口減少が見込まれる日本においては、上下水道インフラが限界を迎えている地域も出始めており、そうした地域における解決策になる可能性があると思っています」(前田さん)。

小規模分散型水循環システムを実装するプロジェクト『Water 2040』の詳細はこちらから

水問題以外の環境問題も解決していきたい

最後に、前田さんは今後の展望について次のように語った。

「まず、2030年に水問題の根本的な解決に目処をつけたいと考えています。つまり、誰もが”水問題解決事業”を運営できるようにする。そのために必要なことを全て、それまでに検証していきます。その後は、水問題の解決を進めながら、水以外の環境分野にその成功体験を広げていきたいです。2040年までに、次の環境問題の解決に挑みたいと考えています」(前田さん)。

取材・文/久我裕紀

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