断られてからが仕事の交渉術
榊原さん もうひとつ、交渉に関しては「断られてからが仕事」です。2022年の「THE MATCH」では、那須川天×武尊戦で、約6万人を動員しましたが、那須川天心との交渉では、コロナ禍もあり、途中、私の心は何回も折れかけました。
天心はキックボクシング界の神童と呼ばれていた男でした。順調に行けばキックボクシングのスーパースターになれる選手です。それでも私は天心のRIZINデビュー戦を総合格闘技ルールでやることにこだわりました。彼の格闘家としての人生はもちろん、一人の人間としての人生を考えた時にも、絶対に試合をやった方が良い、やるべきだと強く考えていたので、何回も繰り返し説得を試みました。
一度断られたからといって、すごすご引き下がるのではなく、食い下がって2回、3回と話していくうちに風向きが変わることがあるのです。
こちらが提案をして断られた日は、たまたま相手の気分が落ち込んでいたのかもしれません。相手の気分が良い日に同じ提案をしたら、心を許してくれて、とんとん拍子に話が進む……そんな可能性が、ゼロではないのです。
相手が頑なに拒絶していたのにもかかわらず、社会的な環境や年齢など、さまざまな要素が変化したことによって、交渉の流れがガラリと変わることもあります。
私の場合、いろいろな角度のボールを相手に投げることで、相手のリアクションを窺います。そして、相手を口説くポイントはどこにあるのか、どんな話を持ち出せば相手の心の琴線に触れるのかを判断していくようにしています。
当然のことながら、投げられるボールはたくさん用意しておくことが大切です。同時にこちらがどこまで譲歩できるかということも、きちんと計算しながら、交渉に臨むことです。
どんな苦しくて、難しい出来事であっても、その人に解決できない問題が降ってくることはありません。絶えず挑戦し続ける人生に、価値があると信じて、負ける勇気をもって勝ちに行って欲しいと思っています。
――ありがとうございました。
榊原さんの新刊「負ける勇気を持って勝ちに行け! 雷神の言霊」(KADOKAWA刊、定価1600円+税)は、格闘技の知られざるエピソードから、ビジネスパーソンに役に立つエピソードまで、盛りだくさん。格闘技界のレジェンドのマネタイズの発想は、今こそ参考にしたい。
榊原 信行(さかきばら・のぶゆき)さん
1963年11月18日、愛知県生まれ。株式会社ドリームファクトリーワールドワイド代表取締役社長。大学卒業後、東海テレビ事業株式会社に入社し、様々なイベントをプロデュース。1997年に「PRIDE.1」を開催し、2007年の売却まで唯一無二の地位を築く。沈黙を経て2015年より、「RIZIN FIGHTING FEDERATION」始動。2022年開催「THE MATCH」では、那須川天心×武尊戦を実現させ、総売上50億円超を記録。伝説的なマッチメイクを実現させるなど、現在の格闘技シーンを牽引するキーマン。
文/柿川鮎子
写真/宮澤正明