高齢になるほどスタチンの効果が高まる可能性
高齢になってからスタチンの使用を開始した患者では、若いときにスタチンの使用を開始した患者と比べて、同薬により得られるLDLコレステロール(LDL-C)の低減効果が大きい可能性のあることが、約8万3,000人のデンマーク人患者のデータ解析から明らかになった。
デンマーク国立血清研究所のMarie Lund氏らによる研究で、詳細は、「Annals of Internal Medicine」に2023年8月1日掲載された。Lund氏は、「スタチンによる治療が必要な高齢患者は、同薬による副作用のリスクを最小限に抑えるために、低強度のスタチンから開始すると良いのではないか」との見解を示している。
スタチンは安全な薬と考えられているが、一部の人に筋肉痛や血糖値の上昇などの問題を引き起こすことがある。副作用が生じる可能性は通常、スタチンの強度が高まるほど上昇し、また、高齢者では若い人よりも副作用が起きやすい。
そのため、高齢患者にとっては、低強度のスタチンで治療を開始することが「好ましい選択肢」になり得るとLund氏は言う。ただし、その際には、高齢者の健康状態や、その後の心筋梗塞や脳卒中のリスク低減の必要性といった問題を考慮する必要があることも付け加えている。
スタチンは世界的に最も広く使用されている薬剤の一つだ。同薬の使用が広がった背景には、同薬が「悪玉コレステロール」とも呼ばれるLDL-C値を低下させ、心筋梗塞や脳卒中の予防に役立つことが複数の臨床試験で示されていることがある。
しかし、一般的に、臨床試験の対象者に70歳以上の患者はほとんど含まれていないため、高齢者に対するスタチン使用の指針につながるエビデンスは少ない。
米ニューヨーク大学(NYU)ランゴン・ヘルス、心血管疾患予防センターのHoward Weintraub氏によると、現行の治療ガイドラインにおいては、脳卒中や心筋梗塞の既往がある高齢者ではLDL-C値を大幅に低下させることが推奨されている。
一方、心筋梗塞や脳卒中の初発予防に関しては異なった推奨が示されており、スタチンの使用に関する意思決定は全般的により個別化されたものとなっている。これは、年齢だけでスタチンの開始用量を決めるべきではないことを意味している。
今回の研究はデンマークの国民登録データを用いたもので、2008~2018年にシンバスタチン(米国での商品名ゾコール、日本での商品名リポバス)、またはアトルバスタチン(商品名リピトール)が新たに処方された8万2,958人のデンマーク人患者を対象に解析が行われた。
その結果、75歳以上の患者(1万388人)では、50歳未満の患者と比べて低~中強度のスタチンの使用を開始した後のLDL-C値の低下度が大きいことが示された。
例えば、LDL-C値の平均低下率は、シンバスタチン20mgの使用を開始した人では、75歳以上で39.0%、50歳未満で33.8%、アトルバスタチン20mgの使用を開始した人では、75歳以上で44.2%、50歳未満で40.2%だった。
また、年齢やスタチンの用量などを考慮して解析したところ、50歳で低~中強度のスタチンの使用を開始した患者と比べて、75歳で開始した患者ではLDL-C値の低下度が2.62%ポイント大きかった。
一方、高強度のスタチン(アトルバスタチン40mgまたは80mg)の使用を開始した人では、その差はより小さかった(アトルバスタチン40mgで1.36%ポイント、80mgで−0.58%ポイント)。
Weintraub氏は今回の研究について、高齢患者の方が若い患者よりもスタチンの使用開始後の効果が大きい可能性があることを示した点で「有益な情報」だと話す。
ただし、高齢患者とより若い患者との間に認められた効果の平均差は小さいものであったと付け加えている。また、「スタチンによって高齢患者の心筋梗塞や脳卒中、死亡のリスクはどの程度低下するのか」という、より大きな疑問については答えが示されていないことも指摘。「この研究結果を受けて現行の治療法が変わるとは思えない」と話している。
Lund氏も今回の研究では、「心血管疾患のリスク低減効果について直接的な評価は行われていない」と述べている。また、スタチンの使用を開始して間もない患者のみを対象とした研究であるため、得られた結果が長年スタチンを使用している高齢患者には当てはまらないことも強調している。(HealthDay News 2023年8月1日)
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Abstract/Full Text
https://www.acpjournals.org/doi/10.7326/M22-2643
構成/DIME編集部