日銀のYCCのデメリット
YCCには以下のデメリットがある。
①金利のゆがみ
10年国債を0.5%までに抑えていることで、7~10年未満の国債金利が10年を上回る減少が起きたり、10年までは低く抑えられているが、抑えられている分10年を超えると急激に金利が上がったりするというような、普通はイールドカーブがなだらかにカーブを描くはずがYCCにより金利がゆがめられいびつなイールドカーブになっている。
②国債の大量購入
日銀が国債を大量買入れすることは本来国の借金である国債を中央銀行が大量保有することになり、国の財政規律が緩む可能性がある。また、その価格で大量購入すると分かっているためそれに併せて海外勢が売りを浴びせるため、それに併せてさらに大量購入せざるを得なくなる。
③円安の加速
輸出企業が多い日本で円安は多くの企業によってメリットとなるが、円安は輸入物価を上げることにもなるため、ただでさえ今高くなっている小麦、原油など輸入に頼っている商品の価格が上がる。賃金上昇を上回る物価上昇となる場合、国民の家計を逼迫させてしまうことになる。
YCCの柔軟化
日銀は7月28日までの金融政策決定会合で10年国債金利の上限を0.5%までとしていたYCCを1%まで柔軟化することに決めた。
それにより、10年国債金利は8月3日時点でそれまでのめどだった0.5%超え0.661%まで上昇している。
日銀が公開した「当面の金融政策運営について」によれば、(一部抜粋)『長期金利の上限を厳格に抑えることで、債券市場の機能やその他の金融市場におけるボラテリティに影響が生じるおそれがある。長短金利操作の運用の柔軟化によって、こうした動きを和らげることが期待される。』と述べている。
つまり、0.5%と長期金利を抑えていることで、YCCのデメリットである金利のゆがみを生じさせていることやこのところの円安による物価高で電気代や輸入品、ガソリン代は大幅に値上がりしていることから、そのような動きを和らげるために今回YCCを柔軟化したということだ。
今回のYCC柔軟化は米国と同じ利上げにつながる?
米国は現在インフレ抑制のため、急激に利上げを行っている。
一方で、日本は米国とは大きく異なり実質金利は上がっていないのだ。
日銀の2%の物価目標は、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%維持されることを指している。
消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率は、2022年は2.3%と2023年(予想)2.5%と2%を上回ったが、2024年(予想)以降は2%を下回りそうで、ここが2%を上回らないことにはマイナス金利を解除するというような政策金利の利上げのような緩和縮小はなさそうだ。
YCC修正の影響
YCC修正でも短期金利はマイナス金利のままであることから、急激な円高とはならず、株価も大きく下げることはなかった。
ただ、日本で長期金利が0.661%まで上がったと同時に、米国で、米国債の格下げにより財政を引き締める可能性や、財政赤字補てんのための中長期債の発行規模引き上げによる債券価格の下落で、米国長期金利が4.03%から4.09%へ上昇し、米国の7月民間雇用者数が前月に続き市場予想を大幅に上回り、短期金利の方でも追加利上げの懸念もあり、米国株発で日本株も8月1日、2日と大きく下げている。
YCCの修正の影響で身近なところでは、住宅ローンの固定金利だ。住宅ローンの固定金利は10年国債を基準に決められていため、0%→0.5%に上がったときも適用金利が上がったが、今回も0.5%を超えてくれば上がってくるだろう。実際に、
そして、企業の中長期の資金調達にも影響が出る。上限が1%に上がればイールドカーブも上限に併せて上がるため、3~5年もつられて上がってくる可能性があり、さらに10年以上の者も上がってくるため、借入の際の適用金利がこれまでより高くなる。
一方で、短期的な借り入れや住宅ローンの変動金利はこれまで通り低い適用金利が続くものと考えられる。しかし、2024年以降物価見通しが今の予想より上振れ、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率2%が続けば、マイナス金利が解除され短期資金や変動金利も金利が上がる可能性はある。
(参考)
金融政策に関する決定事項等 2023年 : 日本銀行 Bank of Japan (boj.or.jp)
・イールドカーブ・コントロール(YCC)の運用の柔軟化(2023年7月28日)
・当面の金融政策運営について(2023年7月28日)
文/大堀貴子