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観光旅行はもう古い!次世代型観光「ウェルネスツーリズム」が注目される理由

2023.08.11

■連載/阿部純子のトレンド探検隊

コロナ禍以降、日本人の旅行者は国内志向が強くなっている

新型コロナウイルス感染症が一段落した今夏は、祭りやイベントとコロナ前の賑わいを取り戻し、全国の観光地では活況を呈している。しかし、ウクライナ紛争など不安定な世界情勢も影響し、「旅」の在り方にも変化が起きている。

宿泊予約サイト「ブッキング・ドットコム」では、アジア、オセアニアの「APAC旅行態度指数」の調査を実施。各国の旅行者の感情や旅への安心感の指数の違いが浮き彫りになった。

調査では旅の動機や優先事項、行動から、11の国と地域を4つのタイプに分けた。旅に対して最も高い安心感を示した旅行者が多かったのは香港で、74%が「昨年と比較して今年の旅行回数を維持、あるいは増やす意向」と回答。次いでインド、中国が続いた。

日本、ニュージーランド、韓国、タイは国内派が多く、現実的な旅や、自宅近くでの滞在を好み、入念に計画された効率的でシームレスな旅行体験を求めており、限られた時間とリソースを最大限に活用していることがわかった。

「国内派の現実主義者」カテゴリーに入っている日本は、季節や長期休暇に関係なく、国内旅行を好む傾向が強いことが明らかになった。理由としては、新型コロナの影響で海外旅行への優先度が下がったと考えられる。

旅への懸念として、日本で最も多かった回答は「費用」(34%)だったが、一定数は「懸念なし」(27%)と回答。APAC全体平均の「懸念なし」(10%)を大きく上回り、日本はAPAC他国と比較して、旅行に対する懸念が少なくなっていることが伺える。

旅の目的については、日本人の半数以上(52%)は「日常のストレスから逃れるために旅をするのが好きだ」と回答。33%が「チャレンジする経験がしたい」と回答した。これはAPAC全体平均の20%を大きく上回り、日本の旅行者は旅に対して日常から離れ、チャレンジすることを求めている傾向が伺える。

旅のモチベ―ションで、日本で最も多かった回答は「リラックス」(53%)で、半数以上が安らぎのある休暇を求めていることが明らかになった。「食事」「健康」はAPAC全体平均と比較しても高く、旅の総合的な楽しみをモチベーションとし、心身ともに活性化するアクティビティを求めていることが伺える。

ブッキング・ドットコムが毎年行っている「サステナブル・トラベル」の調査では、世界の旅行者の76%(日本の旅行者56%)が「今後1年間において、よりサステナブルに旅行したい」と回答する一方、世界の旅行者の76%(日本の旅行者75%)が「世界的なエネルギー危機と生活費の高騰が支出計画に影響を及ぼしている」と回答。

世界の旅行者の49%(日本の旅行者43%)が「よりサステナブルな旅行はコストがかかりすぎる」と考える一方で、世界の旅行者の43%(日本の旅行者22%)は「サステナブルな認証を受けた旅行のために追加料金を支払うことをいとわない」と回答している。

旅行者のサステナブルな旅行に対する関心は高いものの、生活費の高騰や気候変動への不安から、サステナブルな旅行を選択するか、それとも旅行費用を削減するかの間で板挟みになっているジレンマが明らかになった。

「観光」の時代は終わり旅本来の力に原点回帰した「ウェルネスツーリズム」の時代へ

調査の結果から、アフターコロナでは日本人の旅のモチベーションが、従来の観光型から心身を活性化させるアクティビティや、サステナブルな旅へ変化していることが感じられる。

こうした旅行者の意識の変化に応える「ウェルネスツーリズム」が注目されており、ブッキング・ドットコム主催の「ウェルネスツーリズム体験会」(於:THE HARBOR TERRACE)で、ウェルネスツーリズム研究の第一人者である荒川雅志氏による講演が行われた。

【荒川雅志氏 プロフィール】
琉球大学国際地域創造学部 ウェルネス研究分野 教授 医学博士 ニューヨーク大学客員教授。1972年福島県生まれ。世界5大長寿地域(ブルーゾーン)・沖縄の100歳長寿者のライフスタイル研究、沖縄の美容と健康素材の研究で、福岡大学大学院医学研究科社会医学疫学専攻修了。日本から発信する新しいウェルネスの定義、新しいウェルネスツーリズムの定義、インサイドアウト、SDGs提唱など、ウェルネス研究、ウェルネスツーリズム研究の第一人者。

〇「次世代生活創造層」の増加でウェルネス産業市場が形成

人間にとっての「変わらない本質」である命、健康が新型コロナによって脅かされたため、健康への欲求が世界中で高まっている。

同時に生き方、働き方を変えることも我々の前に否応なく突き付けられた。コロナがなければ気づくことはなかったが、コロナによって多様性や選択の幅が広がった。

豊かな人生、輝く人生を手に入れるための基盤が「ヘルス」で、目的・ゴールが「ウェルネス」だと考えている。ニューノーマルの時代に直面した新しい生き方、働き方を求める欲求、クオリティ・オブ・ライフの分野も「ウェルネス」であり、究極のウェルネスを達成させるための状態が「ウェルビーイング」で、ウェルビーイングに向かうためのアクションをウェルネスと呼ぶこともある。

2000年に発表された、アメリカの社会学者ポール・H・レイ博士と、その妻で社会心理学者のシェリー・R・アンダーソン博士の著書「The Cultural Creatives: How 50 Million People Are Changing the World.」では、15万人を対象に追跡調査をして、新しい価値観の人口層を「次世代生活創造層=カルチャークリエイティブ」と名付けた。

次世代の価値観を持ち新たな文化を創造していくカルチャークリエイティブは、アメリカでは26%、EUでは35%といると言われている。

カルチャークリエイティブは、経済、消費、科学といった現代社会に必要な概念は肯定しながら、サステナビリティ思考と行動実践を両立させており、このような価値観を持った人たちが増えてきている。

これらの層はビジネス・ファッション・ブランドといった欲求のライフスタイルを実現していることからマーケティング対象となり、企業の社会貢献(CSR)投資、ESG投資を巻き込み、ウェルネス産業市場が形成されてきた。その中のひとつにウェルネスツーリズムもある。

出典:荒川雅志氏 琉球大学国際地域創造学部ウェルネス研究分野

〇アフターコロナで顕著になった「ウェルネスツーリズム」志向

京都大学の片山一道先生が名付けた「ホモモビリタス」、つまり人間は動きまわる動物で、旅は人間の根源的な欲求でDNAに組み込まれており、人が人であることの証でもある。それがコロナでできなくなった。人間の根源欲求である旅が抑圧されると、行ける時になったら爆発する。つまり旅行、観光業界の復活は間違いなく来る。

未知への好奇心、新しい地での発見、出会い、体験する喜び、ツーリズムに魅力を感じる心理といった本来の旅の価値がコロナによって改めて再認識されて、旅の価値が上がった。

だからこそ以前のような「観光」には絶対に戻らないでほしい。旅の本質に向き合うチャンスだということを、私自身、全国の自治体での講演で熱く語っている。

文明史最古の旅は巡礼。巡礼は祈りであり魂を癒す旅。これこそがウェルネスツーリズム。様々な宗教に祈りの文化があって、一生で一度は聖地に何年もかけて訪れる。そこで旅人をもてなす大きな館を「ホスピターレ」と呼んだ。ここでは疲れを癒し、時には治療も行っており、ホスピタリティ、ホスピタル、ホテルは同一語源で、ホテルの本来の価値はそこにある。古くて新しい旅、健康を求め、魂を癒す旅がウェルネスツーリズムだ。

海外ではウェルネスツーリズムとスパ(温浴)ツーリズムは同義語として使われることが多い。スパツーリズムは温泉、温浴など水利用をベースとしたツーリズムで、健康増進、レジャー、療養と、ウェルネスからメディカルの領域に渡る。

ウェルネスツーリズムの約半数はリゾート地でのディスティネーションスパ。施設完結型で3日~1週間ほど滞在してじっくりと保養してヘルス的なアクティビティ、食事をするというもの。ラグジュアリーツーリズムの一部ともいわれている。

日本でも古くから湯治文化があるが、世界に通用するラグジュアリーツーリズムの施設はまだ日本にはないと思われる。しかし、アジアにもラグジュアリー型施設はあり日本でも作ることは可能だ。

日本にはウェルネス資源が多くあるが、これを観光資源というラベルを貼って使うのはもったいない。もっと人々の健康、癒し、ケアにコミットしていくような、地域資源をウェルネス資源として活かした方が、価値が高い。

パーソナル、セミオーダーといった特別感のあるプログラム、地域固有の特色の強み、安心・安全と、ラグジュアリー要素を満たしながら地域のプレイヤーも参画してトータルでウェルネス体験を提供していく、ライフスタイル型、アライアンス型のウェルネススツーリズムは日本ならできると思う。

行政や地元の企業など、様々な業種とアライアンスを組んで提供していく「日本型ウェルネスツーリズム」の誕生を期待している。

出典:荒川雅志氏

【AJの読み】疲れだけが残る旅から心身を癒す旅へシフト

決まった時期しか休みが取れないことが多い日本人の場合、休暇に合わせて無理やり旅のスケジュールを組んでいるという人も多いのではないか。今夏のように異常な暑さの中では、混雑する遠方の観光地を巡るような旅行だと、帰ってきてから残るのは疲れだけということになりかねない。

「アフターコロナの今、我々は旅本来の力に原点回帰していく時だと考える。日本はオリンピックを経験して観光が追い風になっているようにみえるが、先進国で最後に観光立国を宣言した観光後進国。地球環境の中でのサステナビリティの意識、旅の在り方についての意識はまだまだ低い」(荒川氏)。

自然療法、代替療法で自然治癒力、免疫力を上げていく力は、旅先の資源に大いに有意性があると荒川先生は話す。荒川先生が提唱するのは、自律神経、生体リズムを調整する滞在プログラム。基本メニューは以下の通り。

・早朝は太陽の光をしっかり浴び、軽運動による体温介入、規則正しい朝食。
・午前中は運動アクティビティ、規則正しい昼食、適切なタイミングに仮眠・休養。
・午後は健康アクティビティ、規則正しい夕食。
・就寝前はリラックスし、適度で緩やかな体温介入。

筆者も怪我の後遺症があり湯治を検討していたが、昔ながらの湯治場は、自炊場はあるものの施設が古いことが多く、長逗留するには難しいと未だ実行していない。リハビリも兼ねて水特性による水中運動も定期的に行っているが、こうした運動やヨガ、温浴、森林浴、レジャースポーツ等のアクティビティに、観光地散策を組み合わせたウェルネススツーリズムなら、年代や目的を問わず幅広い層のニーズがあると思われる。本格的なウェルネスツーリズム施設が日本各地に誕生してほしいと願うばかりだ。

文/阿部純子

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