鼻腔ぬぐい液の細菌検査で小児での抗菌薬使用の削減へ
副鼻腔炎が疑われる小児には、その原因菌であることが多い3種類の細菌の検査をすることで、不要な抗菌薬の処方を回避できる可能性を示したランダム化比較試験(RCT)の結果が報告された。
このRCTは米ピッツバーグ大学小児科学およびクリニカル・トランスレーショナル・サイエンス教授のNader Shaikh氏らが実施したもので、詳細は、「Journal of the American Medical Association(JAMA)」2023年7月25日号に掲載された。
副鼻腔炎は小児に頻発する疾患で、鼻づまりや鼻水、不快感、呼吸困難などの症状が現れるが、治療しなくても治る場合が多い。しかし、現状では、抗菌薬が有効な患児を予測する良い方法はなく、必要のない患児にも抗菌薬が処方されることがある。
Shaikh氏は、「抗菌薬の効かない耐性菌は重大な公衆衛生上の問題だ。不必要な抗菌薬の処方を減らすべきだ」と話す。
また、「抗菌薬には下痢などの副作用を伴うことがあるが、腸内細菌叢に対する抗菌薬の長期的な影響についてもよく分かっていない。したがって、小児の症状の原因が細菌感染ではない場合、抗菌薬で治療することのメリットよりもデメリットの方が大きくなる可能性もある」と指摘する。
今回のRCTでは、2016年2月から2022年4月の間に副鼻腔炎に罹患した2〜11歳の小児510人(2〜5歳が64%、男児54%)を対象に、副鼻腔炎の主な原因菌とされる3種類の細菌〔肺炎レンサ球菌、インフルエンザ菌、モラクセラ・カタラーリス(Moraxella catarrhalis)〕への感染や、色(黄、緑)の付いた鼻汁の有無で抗菌薬の使用によりもたらされるベネフィットが異なるのかが検討された。
対象者は、10日にわたって抗菌薬(アモキシシリン90mg/kg/日・クラブラン酸6.4mg/kg/日)を投与する群(254人)とプラセボを投与する群(256人)のいずれかにランダムに割り付けられた。また、試験開始時と終了時に対象小児から鼻腔ぬぐい液を採取し、3種類の細菌の検査を行った。
その結果、小児鼻副鼻腔炎症状評価尺度(Pediatric Rhinosinusitis Symptom Scale;PRSS)で評価した症状スコアの平均点は、抗菌薬群の方がプラセボ群よりも有意に低く〔9.04点対10.60点、群間差−1.69、95%信頼区間(CI)−2.07〜−1.31〕、また、症状が寛解するまでの時間も抗菌薬群の方が有意に短いことが示された(7.0日対9.0日、P=0.003)。
鼻腔ぬぐい液から対象とした細菌が検出されなかった小児(抗菌薬群73人、プラセボ群65人)では、プラセボ群と比較した症状スコアの差が−0.88点(95%CI −1.63〜−0.12)であったのに対し、細菌が検出された小児(抗菌薬群173人、プラセボ群182人)でのスコアの差は−1.95点(同−2.40〜−1.51)であり、細菌が検出されなかった小児に抗菌薬を投与しても、細菌が検出された小児と同程度のベネフィットは得られないことが示された。
こうした結果から、鼻腔ぬぐい液を用いた細菌検査は、抗菌薬投与の効果が期待できる小児を特定し、効果が期待できない小児に対する抗菌薬の処方を回避できる、シンプルかつ効果的な方法であることが示唆された。
さらにShaikh氏によると、医師たちの間では一般的に黄色あるいは緑色の鼻汁は細菌感染のサインと考えられているが、今回の研究では、鼻汁の色の有無により、抗菌薬の効果に有意な差は認められないことが示された。
このことは、鼻汁の色を基に抗菌薬の処方を決めるべきではないことを意味する。
Shaikh氏らは、鼻腔ぬぐい液を使って副鼻腔炎の原因菌の有無を迅速に検査できる検査法の開発に興味を示しており、「われわれの研究結果は、診断の向上や抗菌薬処方の削減のために、副鼻腔炎の症状が認められる小児の治療に細菌検査を導入することを支持するものだ」と述べている。
一方、付随論評の著者の一人で米ジョンズ・ホプキンス大学小児科学教授のAaron Milstone氏は、「現状では、抗菌薬の有効性を判断する上で役立つ、安価で広範に導入できる検査法は存在しない」と話す。
また、鼻の中に存在する細菌が、必ずしも重症の感染症の兆候を示すわけではないことを指摘し、「もし、小児の鼻腔ぬぐい液の迅速検査が利用できるのであれば、必要以上に頻繁に検査が行われるようになり、抗菌薬の使用頻度が減るどころか増える可能性がある」との見方を示す。
さらに、そのような検査法は、メリットが小さいにもかかわらず医療コストの増大につながる可能性もあるとしている。
Milstone氏によると、ほとんどの副鼻腔炎は自然に治癒する。また、下痢などの抗菌薬の副作用は、親や子どもにとっては副鼻腔炎の症状よりもつらい場合もある。
同氏は、「副鼻腔炎は極めて高頻度に生じる疾患だ。また、抗菌薬の効果が得られたとしても、その効果はさほど大きなものではない。したがって、子どもが副鼻腔炎を発症した場合、親は子どもの回復を辛抱強く待つ必要があり、それには時間がかかることを理解しておくべきだ」と話している。(HealthDay News 2023年7月26日)
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(参考情報)
Abstract/Full Text
https://jamanetwork.com/journals/jama/article-abstract/2807568
構成/DIME編集部