世界のIPOは2023年の現時点で、件数と調達額が前年同期比でそれぞれ5%と36%減少
EYから、2023年第2四半期(以下、2Q)のIPOに関する調査結果が発表された。
2023年1月~6月において、世界のIPO市場では、615件のIPOが行われ、調達額は合計609億米ドルとなったが、これは前年同期比でそれぞれ、5%と36%の減少になる。ちなみにIPOとは、Initial Public Offeringの略語で、日本語では新規公開株や新規上場株式のことをいう。具体的には株を投資家に売り出して証券取引所に上場し、誰でも株取引ができるようにすることを指す。
第1四半期(1Q)に比べると、2Qには、より規模の大きなIPOディールが行われるようになっているが、回復のスピードはこれまでのところ緩やかだ。こうした控えめな結果は、世界経済の成長の減速、金融引き締め、地政学的な緊張の高まりが背景となっている。
しかし、いくつかの新興国では、IPO活動が非常に活発になっている。その理由は、世界がこれらの国の豊富な鉱物資源、膨大な人口、台頭するユニコーン企業、起業家精神にあふれた中小企業(SME)を求めているため、各国がその需要の恩恵を受けているためだ。
これらを含む調査結果は、EYの四半期レポートEY Global IPO Trends Q2 2023(以下、「本調査」)で公表している。
2023年の現時点で引き続きIPO活動の先頭を走っているのが、テクノロジーセクターだ。一方で、世界のエネルギー価格が以前より落ち着いてきたため、エネルギーセクター企業によるIPO調達額は次第に減少している。
クロスボーダーIPOは、中国企業による米国での上場が増えてきたため、またスイス証券取引での上場も安定した人気を誇っているため、件数と調達額ともに大きく上昇した。
SPAC(特別目的買収会社)市場は、合併交渉がますます複雑化していることから、引き続き困難な状況に直面している。買収対象会社を合併し一連の買収取引を完了するプロセスを終えていないSPACが依然として数多く存在し、これらのSPACは今後半年で会社の解散期限を迎えるため、清算の必要性に迫られている。
しかし、SPACによるIPO活動は、2021年以前に見られたより現実的で持続可能なレベルに回復することを本調査は予測している。
各地域の業績の概要〜2Qの業績が1Qを上回る
IPOの件数が引き続き伸び悩んでいる一方で、Americasは、2023年現時点で調達額が前年同期比86%増の91億米ドルを達成した。
その主な理由は、スピンオフIPOのメガ案件が1件あったためで、本案件は米国で2021年11月以来最大のIPOとなった。米国では、いくつかの大型ディールが行われたことが主な要因でIPO活動が上向き傾向にある。市場センチメントが最近改善したことは、2023年後半あるいは2024年に米国のIPOがより活発に行われる兆候かもしれない。
しかし、前向きな展開にもかかわらず、Americas全体のIPO市場が回復するのは、市場関係者が2023年初頭に予測した時期よりも遅くなる可能性がある。これは、その時点で2023年に一連の銀行破綻が起こることが予見できなかったためだ。
Asia-Pacificは2023年現時点で、世界IPO市場の約60%のシェアを誇り、件数と調達額の両方で世界リーダーの地位を維持している。
IPOの世界トップ10ディールのうち5件は中国本土で、1件は日本で行われたものだった。
2023年現時点で、Asia-Pacificでは371件のIPOが394億米ドルを調達した。前年同期比では、件数が2%、調達額が40%の減少となっていますが、調達額の落ち込みが大きかったのは、中国本土で、多くの大型ディールが様子見のため延期となり、IPO市場の動きが予想より鈍かったためだ。インドネシア証券取引所は、その20年以上の歴史の中で初めて、世界の証券取引所におけるIPO件数のランキングで香港を抜いた。
EMEIAでは、IPO活動の減少が続いており、2023年現時点で件数が前年同期比12%減の167件、調達額が50%減の124億米ドルとなっている。
こうした状況でも、EMEIAは世界のIPOディールの27%を占める世界第2位のIPO市場であり、2023年現時点において世界で2番目に大きな25億米ドルのIPOディールが行われた地域でもある。
また、インドの証券取引所は、過去20年達成できなかったジンクスをついに破り、IPO件数でEMEIAトップの座に躍り出た。しかし、ヨーロッパの大半の国では、インフレのレベルが引き続き高くなっており、流動性の欠如によるIPO活動の停滞が続いている。
EY Global IPOリーダーのPaul Go氏のコメント
「世界各国の経済状況がさまざまであり、地政学的情勢も予測不可能な中で、いくつかの株式市場では、本当に久しぶりに株価が最高値を更新し、値動きも安定してきています。テクノロジーやクリーンエネルギーなど、特定のテーマに焦点を置くセクターは、IPO活動が上昇する兆しを見せています。
一流大企業は揺るぎないレジリエンス(回復力)を実証している一方で、市場では、より現実的で、無難な企業価値評価を掲げた成長ストーリーが、これまで以上に受け入れられるようになっています。こうした環境の変化の中で、企業は将来の好機に備えて、今のうちに「IPO可能な状態」へと準備を進める必要があります」
EY Japan IPOリーダー/EY Startup Innovation共同リーダー/EY新日本有限責任監査法人 企業成長サポートセンター長の齊藤 直人氏のコメント
「好調な日本の株式市場を背景に2023年上半期の日本のIPO件数は、44件と2022年上期の37件を上回り、回復傾向にあります。2023年5月に国税庁は『ストックオプションに対する課税(Q&A)』を公表し、信託型ストックオプションについては、『給与所得課税とみなす』という見解を示しました。
また、7月には、日本公認会計士協会および企業会計基準委員会が会計処理に見解を示すなどの動きがあり、今後、注目すべき論点となっています」
2023年後半の展望〜パイプラインは静止状態
金融引き締め政策も終わりに近づいていることから、経済状況と市場センチメントが次第に向上しているため、2023年後半にはIPO活動が世界的に再開されることが期待されている。
米国ではスピンオフIPOのメガディールが1件初登場し、他のどの伝統的なIPOよりも注目を集めた。この出来事は、こうしたトレンドが続いていくことを強く示唆している。
大企業のスピンオフまたはカーブアウトで生まれた企業のIPOは、今後、主要な証券取引市場全般で実行されることだろう。なぜなら、企業は事業の分割を通して、より大きな株主価値を創出することを目指していると同時に、投資家はIPO市場がまだ復活していない中で、利益をしっかりと生み出す成熟した企業を好む傾向があるからだ。
企業は、IPOを行う予定の国について、その国が定めるIPOの要件を理解する必要がある。国によって異なる要件を理解することは、投資家の期待に応えるため、またIPOが規制上の問題で遅れる可能性を避けるためには必要不可欠だ。
投資家は引き続き、安定したファンダメンタルズと確かな実績を持つ企業に的を絞りながら、投資先企業を入念に選択していくはずだ。企業は、IPOの代替プロセス(直接上場、あるいはSPACによる買収対象企業の合併)から他の資金調達方法(プライベートキャピタル、借入、トレードセール)まで、すべてのオプションを考慮する必要があるだろう。
2014年から2022年は通年のデータ。出典:EY、Dealogic
関連情報
https://www.ey.com/ja_jp/news/2023/07/ey-japan-news-release-2023-07-31
構成/清水眞希