折りたたみスマホには、一般的なスマホを縦に折ることでコンパクトに持ち運べるモデルと、タブレットに近い大画面を折りたたむと一般的なスマホに近い形状にできるモデルの2種類があります。
日本で発売されている折りたたみスマホは、15万~25万円程度が相場となっているため、気になるけど価格が高くて買えていないという人も多いでしょう。価格もさることながら、ディスプレイを折りたたむという性質上、製品の耐久性に不安があるという人もいるはずです。
そこで、2022年に発売された「Galaxy Z Fold4」と2023年7月に発売されて間もない「Google Pixel Fold」をそれぞれ、1か月ほどメイン端末としてがっつり試し、個人的に感じた横折りタイプの折りたたみスマホの特徴や課題をご紹介します。
2023年モデルとなる「Galaxy Z Fold5」「Galaxy Z Flip5」がグローバル発表され、今後の日本での展開が気になる中、横折りのスマホは買いなのか? それともスルーか? 探ってみます。
横折りタイプの折りたたみスマホは意外と〝開かず〟使う
縦に折るタイプのスマホの場合、一般的なスマホの縦幅をほぼ半分にして持ち運べるため、ポケットにもすっぽりと収まるのが特徴。その分、外側に搭載されているカバーディスプレイはサイズが小さく、すべてのアプリが起動できるというわけではありません。
2023年になって登場したモトローラの「razr 40 ultra」やサムスンの「Galaxy Z Flip5」では、カバーディスプレイを3インチ強にまで大型化し、メッセージアプリの操作やQRコードの表示など、できることが格段に増えているものの、〝普通にアプリを使う〟ためには、ディスプレイを開くことになります。
一方、今回試した横折りタイプの場合は、閉じた状態が普通のスマホ程度のサイズで、開くとタブレットに近くなるという製品。実際に使っていると、閉じたまま使用するシーンがかなり多くあります。
Galaxy Z Fold4は約6.2インチ、Google Pixel Foldは約5.8インチのカバーディスプレイを搭載しており、すべてのアプリが一般的なスマホと同じ感覚で使用できます。特に屋外ではディスプレイを開く機会が少なく、「家では開く、外では閉じる」という使い方が便利。閉じた状態では、一般的なスマホとそん色ない使い心地になっているので、開くと大きな画面になるという付加価値を考えると、お得に思えます。
「厚さ、質量」と「アスペクト比(縦横比)」の関係には各社の個性がある
横折りタイプという意味では共通しているGalaxy Z Fold4とGoogle Pixel Foldですが、本体の設計、特にアスペクト比に関しては、明確にそれぞれの個性が分かれています。
Galaxy Z Fold4は、ディスプレイを開いた状態でも縦長の設計になっているため、手の小さい筆者でも、ギリギリ片手でつかめる横幅になります。専用のタッチペン「Sペン」に対応していることもあり、片手で大画面を持って直接手書きする使い方もやりやすいです。タブレットのように、横長にコンテンツを表示させる場合は端末を90度回転させる必要があるのがやや面倒ですが、持ちやすさとトレードオフといえます。
縦長の設計が活かされるのはやはりディスプレイを閉じた時。縦に長いスマホといえば、Xperiaシリーズなどがあげられますが、それらよりも極端に縦長のデザインなので、横幅が狭く、手にしっかりとなじむようになっています。また、縦に長いことから、メッセージアプリやSNSアプリ、ブラウザアプリなど、縦にコンテンツを表示するアプリの場合、多くの情報を同時に閲覧できます。
一度に多くの情報を表示できるGalaxy Z Fold4のカバーディスプレイ
一方、Google Pixel Foldはカバーディスプレイも一般的なスマホに近いアスペクト比になっており、ほとんどのアプリが適切なサイズに表示されるのが特徴。その分、横幅が広いため持ちにくさを感じるシーンもあります。
Google Pixel Foldは一度に表示できる情報量が少なめ
また、Google Pixel Foldはディスプレイを開いた際、タブレットのように横に長いデザインになるため、動画視聴などはそのままの角度でも大画面で表示されるのが特徴。「ただ90度回転させるだけ」ではありますが、このひと手間が省略されるのは、普段使いにおいて快適さを大きく分けるポイントだと感じています。
一方で、横折りタイプのスマホとは切っても切れない課題が「厚さ」と「質量」です。ディスプレイを折りたたむという性質上、一般的なスマホと比べて分厚くなってしまうのは避けがたいこと。加えて、大画面ディスプレイを搭載している関係から、質量も増えてしまいます。
左から比較用のiPhone 14 Pro、Galaxy Z Fold4、Google Pixel Fold
実際、Galaxy Z Fold4は折りたたみ時の厚みが約14.2mmで質量約263g。Google Pixel Foldは折りたたみ時の厚みが約12.1mm、質量は約283gとなっています。Galaxy Z Fold4では、厚みや質量があっても握りやすいように、横幅を狭くすることでデメリットをカバー。Google Pixel Foldでは、折りたたんだ際にできるディスプレイ同士の隙間をなくすことで、できるだけ本体に厚みが出ないようにデザインされています。
Galaxy Z Fold4はディスプレイを折りたたむと隙間ができる。Galaxy Z Fold5ではヒンジが改良され、この隙間がなくなるとのこと
Google Pixel Foldは折りたたみ時の隙間がない
それぞれ、スマホらしい持ちやすさを維持するために創意工夫をしている印象がありますが、個人的にはまだまだ洗練されきっていないポイントと感じています。
例えば、Galaxy Z Fold4は、縦に長いデザインがゆえに、片手で持った際に、上部が手からかなりはみ出す形になるので、重心のバランスが少し悪い印象。また、ディスプレイの上側を触る際には、親指をかなり伸ばさないといけません。
横幅が狭く握りやすいが、上部が手のひらからかなりはみ出てしまう
一方、Google Pixel Foldはやはり約283gという重さがどうしても気になります。短時間であれば問題ありませんが、長時間片手で操作していると、手首にストレスがたまってきます。また、薄型化のために、折りたたんだ際の隙間がないように設計された関係からか、ディスプレイを開いた際に、完全に180度まで開きません。少し力を加えれば、180度になりますが、故障の可能性を考慮すると少々不安です。手に持って使う分には問題ありませんが、机の上に端末を置き、ゲームアプリなどをプレイする際には、安定感がないのが少々残念なポイントです。
握り心地に関しては、手のサイズや筋力によっても印象が変わるので、まずは一度端末を手に取るのがおすすめですが、両端末ともにもう少し軽くなってほしいというのが本音です。そういう意味では、Galaxyの最新モデル「Galaxy Z Fold5」では、ディスプレイ同士の隙間がなくなり、薄型・軽量化されているため、より扱いやすくなっていると考えられます。ここは、折りたたみスマホとしてはファーストモデルとなるGoogle Pixel Foldと、第5世代になるGalaxy Z Fold5の、フォルダブルスマホの開発期間の違いといえるでしょう。
ちなみに、「ディスプレイの折り目が気になるのでは」と思う人がいるかもしれませんが、実際に使っていて、両端末ともに違和感を覚えるシーンはほとんどありません。
よく見ればくぼみがわかるが、使っていて気になることはほぼない
最適化されているアプリも徐々に増えているものの……
折りたたみスマホというギミックの面白さはあれど、快適に使用できるアプリが用意されていなければ、とてもおすすめの製品とはいえません。5世代にわたって折りたたみスマホを開発しているGalaxyの専用アプリはもちろん、多くのGoogle系アプリも大画面向けにデザインが最適化されており、普段使いにおいて困るシーンはほとんどなくなってきています。
使用頻度の高いGmailのようなアプリは、しっかりと2列に表示できるようになっているため、視認性が高いのが魅力。LINEのようなサードパーティ製アプリの中にも対応しているものがあります。大画面を活かせる、電子書籍アプリや動画配信アプリにも、対応しているものが多くあるため、多くのアプリを楽しめる環境は整いつつあるといえます。
ただし、「1日に〇話読める」といった漫画配信アプリでは、2画面の表示に対応していないことが多く、存分に大画面を活かしきれていません。また、ゲームアプリの多くは、独特なアスペクト比の関係から、画面中心に寄って表示されるか、上下、左右のいずれかに黒い帯が入るものがほとんどです。現時点では、スマホアプリを頻繁にプレイするという人には、あまりおすすめできません。
スマホにはない大画面であることに加え、タブレットとも違う、正方形に近いアスペクト比になる関係から、サードパーティ製のアプリが対応に時間がかかる、もしくは対応しないという可能性も十分考えられます。とはいえ、Androidスマホの総本山ともいえるGoogleから折りたたみスマホが出たことをきっかけに、これから対応アプリがどんどん増えていくことも考えられます。ゲームアプリに関しては、もうしばらく様子見といったところでしょう。
とはいえ、OSレベルで見ると、Google Pixel FoldにプリインストールされているAndroid 13(Galaxy Z Fold4はAndroid 13ベースのOneUI 5.1にアップデート可能)で、タスクバーの表示や通知パネルの2列表示など、折りたたみスマホにしっかりと最適化されてきています。普段使用していて、ソフトウエア面で特別ストレスのたまるシーンはありませんでした。
一つどうしても気になるのがバッテリーの消費レベル。折りたたんで使用している分にはあまり気になりませんが、開いて動画を見ていたり、ネットを閲覧していると、どんどんバッテリーが消耗していきます。チップセットの高性能化に伴った省電力化や、急速充電には対応しているものの、まだまだ改善の余地はあるポイントでしょう。端末を必要以上に分厚くしないため、これ以上大きなバッテリーを搭載するのは難しいとも考えられますが、さらなる省電力化には、今後も期待していきたいです。
折りたたみスマホは握り心地と価格次第で〝あり〟かも
今回、Galaxy Z Fold4、Google Pixel Foldを実際に使って感じたメリットと課題は以下の通り。
メリット
・閉じた状態では普通のスマホとそん色ない使用感
・大画面デバイス、普通のスマホを1台に集約できる
・ソフトウエア面の最適化が進んでいるため、使い勝手は比較的良好
・Galaxy、Pixelクオリティのカメラや防水仕様、おサイフケータ対応
課題
・厚みはだいぶ改善されてきたものの、やはり重い
・画面を開いて使った際のバッテリー消費が激しい
・一部アプリ(特にゲーム)は最適化に時間がかかる
・販売価格
横折りタイプのスマホは、アプリやソフトウエアの最適化が進んでいるのに加え、薄型化など持ちやすさにもこだわられており、想像以上に使いやすい仕上がり。ディスプレイを開かなくても一般的なスマホと同様に使えるため、不満のたまるシーンは少ない印象です。
端末の重さやアスペクト比など、人によって合う部分、合わない部分はあるはずなので、購入前には必ず一度手に取ってほしいデバイスではありますが、スマホの使い方を1歩新しいステージに持ってきてくれるような期待感も魅力的でした。
また、サムスン、Googleの両メーカーとも、スマホを長年開発してきた知見を活かし、両端末ともに防水に対応しているのも重要なポイント。日本で発売されるモデルでは、FeliCa(おサイフケータイ機能)も利用できるようになっているため、普段使いも快適。今回は詳しく触れていませんが、AIによる写真の補正にも定評のある2社であるため、写真もキレイに撮影できます。
となると、気になるのはやはり販売価格です。取り扱いキャリアや自社サイトからは、25万円前後となっているため、簡単に変えるデバイスではないのも事実です。一般的なハイエンドスマホからプラス5万円程度という価格設定が、高いと感じるか、「5万円で新しいスマホの使い方ができる」と捉えるかはそれぞれですが、サイズ感や重さが受け入れられるのであれば、十分日常使いにもありでしょう。ただし、スマホでゲームアプリをヘビーにプレイしたいという人や、バッテリー性能を重視する人は、もう少し様子を見るべきタイミングかもしれません。
取材・文/佐藤文彦