今年の上半期も様々な“炎上”が世間を騒がせた。その騒ぎの元となった対象や要因を紐解くと、どんな傾向が見て取れるのだろうか?
企業が抱えるデジタルリスクを予兆・検知・解決するソリューションを手掛けるエルテスはこのほど、2023年上期「ネット炎上レポート」を発表した。
エルテスでは、公開されているSNSデータを独自に収集・分析を行い、2019年8月より月次でのネット炎上レポートを公開している。また、これら炎上事例は、同社の定義するネット炎上を満たす事例を抽出し、分析を行っている。
2023年上期全体の炎上傾向
2022年下期(2022年7月~12月)と比較して2023年上期(2023年1月~6月)のネット炎上件数は9.4%増加した。図1で記載している通り、業種ごとに分類するとメーカーとマスメディアの炎上件数が増加している。
また、毎月の炎上件数では、上期を通じて2023年4月が最多になった。4月は画像生成AIを使用したプロモーションの炎上や相次いだ製品の値上げに関する企業のリリースの炎上など、企業が発信した情報に対する炎上が多くみられた。
炎上事象からみる上期炎上トレンド
図2は、2023年上期の炎上件数を月次で炎上対象別に整理したもの。ここからは、炎上対象の軸で2023年上期の炎上の特徴を見ていきたい。
(1)メーカー企業の炎上が増加
全体の炎上件数が2022年下期と比較して増加している中でも、メーカー企業の炎上は2月以降増加し続けており、2023年上期の炎上件数は2022年下期の2.4倍となっている。
メーカー企業の炎上事象では、プロモーション動画が批判を浴びる事例が複数見られたほか、起用タレントの炎上による企業への批判、従業員や関係者の不適切投稿が拡散するなど、炎上起因は様々だった。従業員の不適切行為の拡散については、サービス業界で相次いだバイトテロがトレンドとなって、従業員の不適切行為の掘り起こし活動が活発化した煽りを受けたと想定される。
<メーカー企業で発生した主な炎上事例>
・従業員が差別的な動画を投稿して炎上
・プロモーション動画内に動物愛護の観点での指摘を受けて炎上
・未発表の新製品に関するリークを行った関係者が炎上
メーカー企業に留まらず、企業・団体がダメージを負う炎上として、従業員の不適切行為が2022年より継続的に発生している。過去に撮影された画像・動画が掘り起こされて拡散されるケースが散見されており、企業にとっては予期せぬタイミングで批判を浴びる恐れがある。
また、掘り起こされた画像・動画の場合、第三者による転載のケースがほとんどであり、批判対象となる人物が予期しないタイミングで批判が殺到しているケースも多くある。
従業員を守るべき立場である企業としては、今後の事象発生の予防のために従業員に対してSNSの使い方やコンプライアンス研修を行うことも重要だが、過去の投稿が炎上していないかといった情報のキャッチアップを行うことができる体制を整えることも重要となる。
(2)マスメディアの炎上
2023年上期では、メーカー企業の炎上に加えて、マスメディアが起因となる炎上の事象が多くみられた。全体では、12.9%に及び、2022年下期の4.7%から大きく増加した。
<マスメディアによる主な炎上事例>
・報道の中でテロ行為に使用された爆弾の構造を紹介して炎上
・匿名での告発であったにもかかわらず、映像加工が不十分だったことで身元が特定され、炎上
・懸賞企画の賞品が未発送だったことが発覚して炎上
テロ行為の報道の中で、爆弾構造を紹介することで、爆弾の作り方を教えることになり、模倣犯に繋がるという批判や、匿名での告発の中で告発者を保護できなかった点など、メディアとして役割や影響力への配慮不足が批判に繋がり、メディア側は世の中が求めるメディアの役割を正しく理解することが求められていることが見て取れた。
(3)社会的な注目テーマが炎上トレンドにも影響
2022年のトレンドを引き継ぐ形で、「顧客クレーム・批判」、「不適切発言・行為、失言」による炎上が全体の約8割を占める結果となった。最大の炎上要因となった「顧客クレーム・批判」では生成AIのプロモーション活用での問題や原材料や輸送費の高騰を受けた各社製品・サービスの値上げに関する問題など、世間的なトレンドが炎上にも影響している事象が多くみられた。
<主な顧客クレーム・批判による炎上事例>
・画像生成AIをプロモーションに活用したが、着物の着用ルールから逸脱しているとして炎上
・パッケージに対して内容量が大きく減っており、ステルス値上げではないかと批判殺到
・人気キャラクターとのコラボグッズ販売方法が店舗ごとで異なり、転売対策ができていないと批判殺到
・従来と異なるチケット販売であったにもかかわらずアナウンスをしなかった運営に批判殺到
上記の事例は、法的に批判される要素はないものの、ユーザーからの「この企業であれば○○してくれるはず」や「○○であるべき」といった企業やブランドに対する社会的期待や求められる配慮から逸脱してしまったために炎上が生じている。それらの逸脱は、炎上時のブランドイメージ棄損に繋がるだけでなく、大きな傷跡を残してしまう可能性がある。
これらのインシデント防止のためには、自社やブランドがユーザーからどのようなイメージを持たれているのか、何を期待されているのかを把握し、真摯な対応を求められる。
まとめ
2023年上期の炎上トレンドを見ていくと炎上要因という観点では、昨年に引き続き「顧客クレーム・批判」、「不適切発言・行為、失言」が多く見られるという結果になった。法律・規制として、問題がなかったとしても、企業はユーザーからの期待に応えることが求められ、逸脱することにより批判が発生する。「この企業なら○○してくれるはず」といった期待は社内からでは見えにくい一方で、企業の情報発信には重要なポイントであると言える。
また、上記の期待は企業の情報発信だけでなく、所属する従業員にも該当する。「この企業の従業員であれば○○という意識を持っていて当然」といった期待が、アルバイトを含む企業の看板を背負うすべての従業員に向けられていることを認識しなければならない。
スマートフォンが普及し、誰もが情報発信者となり得る現代の社会において、従業員に対して従業員としての振る舞いやSNSを含めたプライベートでの行動に責任を持つこと、さらに、企業の看板を背負った代表となることを教育・啓発していくことが企業には求められていると言える。
教育や啓発は一度で完結するものではなく、最新情報にアップデートした状態にメンテナンスをかけていくことが重要であり、担当者には最新の炎上トレンドやSNSリスクをウォッチしておくことが必要となる。
出典元:株式会社エルテス
構成/こじへい