コロナ禍真っただ中の時に敢行された、業績悪化などに伴う企業の人員削減。ポストコロナとなった今、その影響はどんな形で現れているのだろうか?
帝国データバンクはこのほど、同社が保有する企業信用調査報告書ファイル「CCR」から、コロナ前の2019年度末と22年度末の各社の従業員数について比較可能な約7万2000社を対象に、「企業の正社員・アルバイト従業員数に関する動向調査」を実施し、その結果を発表した。
企業の3割超で従業員「コロナ前から減少」 非正社員では減少幅「5割超」が1割
コロナ禍の業績悪化などを理由にした人員削減の影響が、足元の「ポストコロナ」で深刻化している。2022年度末とコロナ前の19年度末(各3月)の3年間で、正社員のほかパート・アルバイトを含めた従業員数が比較可能な約7万2000社を調査した結果、3割超の約2万3000社で、総従業員数(人手)がコロナ前に比べて「減少した(戻っていない)」ことが判明した。
減少幅をみると、「1割以下」が最も多く15%に上り、次いで「2-3割以下」が14%だった。一方で、19年度から5割超減となった企業も2%あった。また、コロナ前と同等かコロナ前以上に人手を確保できた企業は6割超を占めた。
雇用形態別にみると、正社員がコロナ前から「減少」した企業は31.3%で、なかでも5割超減少した企業は2.3%にとどまった。一方、パート・アルバイトなどの非正社員では34.2%の企業でコロナ前から「減少」し、5割超減少した企業が9.4%と約1割に上った。
雇用調整助成金などの支援効果もあり、正社員ではコロナ禍前後で大幅な雇用減には至らなかった一方で、シフト制などが多い非正社員で特に減少が目立つ。
宿泊業の6割が正社員・非正社員ともに「戻らず」 飲食店などB to C業種で顕著
業種別にみると、総従業員数が「減少(戻っていない)」した割合が最も多いのはホテル・旅館などの「宿泊業」で、6割の企業で総従業員数が減少した。
このうち、雇用形態別では正社員が53.1%、非正社員で55.7%の企業が、それぞれコロナ前から減少したままで、全業種のうち唯一、正社員・非正社員ともに「減少」が5割を超えた業種となった。
飲食店や娯楽業、出版・印刷といった業種でも5割超で総従業員数がコロナ前から戻らず、なかでも「飲食店」における非正社員の「減少」割合は全業種中で最高だったほか、コロナ前から「5割超減」となった割合も1割を占めた。営業自粛や行動制限が解除され、客足が戻りつつある宿泊業や飲食店で、コロナ禍で減少した人手の回復が大幅に遅れている。
一方、総従業員数が「コロナ前水準(減少の割合が低い)」だった業種には、「医療業」やソフトウェア開発などの「専門サービス」、「職別工事」、「農林水産」などが該当した。
まとめ
帝国データバンクが今年4月に実施した調査では、人手不足感のある企業の割合は5割を超えた。なかでも宿泊業や飲食店では、パート・アルバイトなど非正社員を中心に8割前後が人手不足状態となり深刻な状態が続いている。
3年以上続いたコロナ禍での営業規制や休業等で解雇等を余儀なくされた非正社員が他業種へ流出したままで、一旦削減した労働力をコロナ前水準に回復させることは非常に難しくなっている。
ポストコロナの経済再始動に向け、ほぼすべての産業で働き手を求めるなか、賃上げによって人材を囲う動きが強まり、人手獲得競争は一層の激化が予想される。労働者による働き口の「選別志向」が強まるなか、魅力的な労働条件を掲示可能な企業とそうでない企業の二極化が、さらに進行する可能性がある。
<調査概要>
調査対象:帝国データバンクが保有する企業信用調査報告書ファイル「CCR」から、コロナ前の2019年度末と22年度末の各社の従業員数について比較可能な約7万2000社
調査期間:2023年3月末時点
調査機関:株式会社帝国データバンク
出典元:帝国データバンク
構成/こじへい