■連載/阿部純子のトレンド探検隊
平均時給が38円のAIスタッフ“さゆり”による予約受付サービス
飲食店向けの予約管理システム「ebica」の企画開発・販売を行っているエビソルのAI電話予約応対サービス「AIレセプション」は、対話型のAIソリューション「LINE AiCall」を活用したサービスで、AIスタッフの“さゆり”が会話形式で飲食店の予約を受付ける。従来のプッシュボタン式の自動受付システムとは異なり、実際に人と会話しているかのように対応することができるのが特徴だ。
「ebica」の空席データと連携することで、これまで自動化が難しかった来店当日の直前予約や予約内容の確認に加え、客が希望する時間帯の予約が埋まっていた場合には、前後の予約可能時間や近隣系列店舗を提案することも可能となっている。
ローンチから3年近くが経過するが、今年3月には“さゆり”による全国の飲食店での電話対応件数が200万件を突破。4月には焼鳥屋チェーン「鳥貴族」直営60店舗で、「AIレセプション」の導入が完了するなど、大手飲食チェーンから個人経営の飲食店まで幅広く導入されている。
飲食業界ではネット予約が普及している中でも、依然として全予約の50%近くを電話予約が占めている。飲食店は営業時間中の店舗にかかってくる電話への対応リソースを加味した人員配置の必要があり、客側も忙しい時間帯はなかなか電話がつながらないといった不満があった。
「AIレセプション」を24時間稼働させている飲食店110店舗において、運用費用を稼働時間で割ることで時給を算出したところ、2023年1月におけるAIスタッフ“さゆり”の平均時給は38円、最も多く電話対応している店舗でも時給109円となった。
深刻な人手不足となっている飲食業界で、24時間365日対応できる電話対応専任スタッフを低コストで配置することができるのが「AIレセプション」の大きな利点だ。
ネット予約ではなく、なぜ「音声による対話型AI」で対応したのか、エビソル 代表取締役 田中宏彰氏はこう話す。
「観光業界はネット予約が主流で、ホテルでは8~9割がネット予約というほど普及しています。それに対し飲食業界はネット予約が依然として進んでいません。理由は飲食店のネット諸施策に対する優先順位は低く、正しい空席をネット上にリアルタイムで更新し続けることができないという事情があります。
また、コロナ禍で営業時間の変動や、入店の可否確認をしなくてはいけないことが増えて、飛び込みで店に入るスタイルが大幅に減ってしまったこともあり、直前の電話予約が非常に増えています。ツールは多くあるものの、結果的に予約の半数以上を電話で受付している状況なのです。
外食では難しいとされてきた“空席在庫の一元管理”を、業界で初めてエビソルが『グルメサイトコントローラー』により実現しました。グルメサイトコントローラーでネット予約は一元化しているので、この空席データを使って電話予約対応をデジタル化することにより、空席状況管理も一元化しようと発想を転換、対話型AIという形でサービスを開始しました」
“さゆり”が予約機会の損失なく予約電話を受付できることから、ネット上へ空席を最大公開する設定が可能になり、より予約を取れるようにするためにサービス利用の機運が高まることで、店舗で「ebica」を使ったオペレーションが改めて徹底されるようになった。また、今まで検証できなかった予約不成立の理由が、“さゆり”の会話ログから分析できるようになった。
ローンチ当初は、人手不足による電話対応漏れの抑止を目的に導入する店舗が多かったものの、集客サイクルのDX化である「AIレセプション」を使いこなすことで需要が可視化され、ネット予約の最大活用による総来店件数増加を実現した。
商圏サイズ同一の2エリアでドミナント展開している大手居酒屋チェーンA社では、片方のエリアのみで“さゆり”を導入した結果、利用1年で予約件数が2.4倍差になったという。
「ebica」に蓄積されるデータの精度も向上したことから、今後はインプットされたすべての集客データを活用するフェーズへ移行させていきたいと同社は意気込む。
「対話型AIの活用により、ネット優先度を下げがちな飲食現場にてネットサービスオペレーション徹底の気運が生まれ正確なデータが蓄積され、飲食店の空席を『ネットを使ってどう埋めるか?』を考えるスタートラインにやっとたどり着くことができました。
インバウンドの需要の見通し、オーバーストア気味の現状など、飲食店経営の難易度は高まっていくと考えられますが、外食業界をアップデートする機会ととらえ、オープンイノベーションのもとデータの活用により、先行きが読める商売という立ち位置に進化した、新しい飲食店ビジネスの形を提供していきたいと考えています」(田中氏)
【AJの読み】いつか“さゆり”さんとお話してみたい
外食産業はIT化が遅れていると言われるが、販促のITツールに関しては充実しており、特にグルメサイトは日本で独自に発展してきたサービスで、POSレジシステムやハンディオーダーシステムがここまで浸透している国も珍しいという。
しかし領域ごとに独立した形でツールが発展してきた経緯があり、集客、レジ、再来店が連携しておらず、小規模経営が多い飲食業界ではITリテラシーや投資優先順位の低さから、多すぎるツールを使いこなせていないと田中氏は話す。
こうした課題を解決したのがエビソルの予約管理システム「ebica」で、飲食店はダブルブッキングを気にすることなく空席在庫を公開でき、グルメサイトには常に最新の空席在庫が掲出されることで客も安心して使える。
筆者も食事をするときは、友人と待ち合わせた後に店を決めることが多く、以前は飛び込みで店を決めていたが、最近は空き状況なども読めないことが多く直前に電話で確認している。忙しい時間帯だと電話も憚れるが、「ebica」を活用した「AIレセプション」なら、遠慮することなく電話ができ、しかも確実な予約案内をしてくれるので店側も客側もストレスフリー。
未だ“さゆり”さんとは会話したことがないが、導入店舗が増えれば電話に出てくれる可能性も増えるはずと期待している。
文/阿部純子