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カジノでギャンブル依存、治安悪化は間違い?IR導入が日本の観光業と経済に及ぼす影響と課題

2023.07.25

■連載/阿部純子のトレンド探検隊

本質を知れば「IR=カジノでギャンブル依存症、治安悪化」の認識が変わる?

2016年に成立した IR(統合型リゾート)推進法から7年を経て、今年4月に大阪府の「大阪・夢洲地区特定複合観光施設区域の整備に関する計画」が、初の国の認定を受けた。

IRに関しては負のイメージを持つ国民も多いが、地域経済への貢献やIT活用を含めたIRの正しい情報を発信やサポートを目的に発足された、一般社団法人「IR(統合型リゾート)システム協議会」による勉強会が開催された。

IR=統合型リゾートとは

IR(Integrated Resort)は、IR推進法では「カジノ施設及び会議場施設、レクリエーション施設、展示施設、宿泊施設その他の観光の振興に寄与すると認められる施設が一体となっている施設であって、民間事業者が設置及び運営をするもの」と定義されている。

IR=カジノのイメージが強いが、カジノが主体になっているラスベガスやマカオとは異なり、IRはホテルやショッピングモール、会議場、国際展示場、エンターテインメントなどの複合観光施設であり、IRが創案されたシンガポールでは、カジノは総施設面積の3%以内にとどまっている。

九州・長崎IR誘致の取組について

「IR整備計画とは、民間事業者が計画しているカジノを含んだ統合型リゾートに、地方自治体の政策を加えて、IR区域整備計画、都市整備計画、広域観光計画も取り込んだもの。

IRが計画された地域には反対論も多くありますが、街との関連性、地域にとってどのような役割があるか、どのように発展していくのかを含めて、IRがその地域によってもたらす情報を共有して改めて考える必要があります」(国際カジノ研究所所長 木曽崇氏)

現在、国土交通省で審議を受けている長崎県・佐世保市の「九州・長崎IR誘致の取組について」の施策では、佐世保市がIRに並走する形で進めている「スーパーシティ構想」について木曽氏は言及した。

「佐世保市はIRと並行してITを軸にした都市づくりで、政府のデジタル田園都市構想政策の柱のひとつである『スーパーシティ構想』を打ち出しています。スマートシティ実現への協力に対し財政的支援を拠出し、デジタル都市を実験的に推進していくことを謳っており、IRはこの構想を実現するための大きな原資と位置付けられ、他の地域にはない優位性として打ち出しているのです。

しかし、長崎県民、佐世保市民にはこうした情報が共有できていない、理解されていないことにより反対論が先に立っていると考えられます」(木曽氏)

地方自治体の財源確保、活性化の政策としてIRの議論を

IR システム協議会顧問で、多摩大学ルール形成戦略研究所客員教授の福田峰之氏は、衆議院議員時代にIT&デジタル、ルール形成戦略、知的財産、選挙制度等の実務責任者を務めた。IR誘致の是非が選挙戦での最大の争点となった、2021年の横浜市長選挙にIR推進派として立候補し落選した。

「私はIR推進法を作った際の自民党の担当者で、長い間IRと付き合ってきました。長年デジタル関連に携わってきた私の認識では、カジノは最大の情報産業だと思っています。

しかし、IRは必ず選挙のテーマになってしまっており、大阪を除き現況では反対の意見が優勢です。IRに関しては賛否両論ありますが、地方自治体の財源確保には一番有効な方法であり、個人的には絶対に必要だと考えています。

市長選挙当時、横浜市は2040年には1500億円の財源が足りなくなる見通しが出ていましたが、IRではなく企業を誘致すればいいのではないかという声もありました。

売上・営業利益で日本一のトヨタ自動車の社屋、工場、社員すべてが横浜に来たと想定しても税収は600億円ほどですが、IR事業で横浜市に入ってくるお金はシミュレーションによって幅があるものの、最低で800億円、最高で2000億円とされています。しかも国の補助金のように使うことが決められているものではなくフリーハンドのお金で、こんなお金を自治体が持てる制度設計は他にはあり得ません」(福田氏)

1500億円の将来的な財源不足を乗り越えるには、IRを横浜で行う必要性があると福田氏は訴えたが、反対派からは「ギャンブル依存症が増える」「教育環境に悪影響」「治安の悪化」という理由が挙げられた。

福田氏は、カジノに日本人が入るためにはマイナンバーカードの提示と家族の同意が必要、周囲には住宅も学校もない山下ふ頭に造る、県警がIR周辺の警備の強化を打ち出しているなどを訴えたが、反対派の有権者は「何かあったら責任が取れるのか」と聞く耳を持たなかったという。

「街のパチンコ店のようにあちこちにできると勘違いしていたり、公営ギャンブルと同一視していたりと、IRに実際に行ったことのない人たちが勝手なイメージで感情的に反対していることが、市長選挙で痛いほどわかりました。

議論はもちろん必要ですが、人口が減少し、製造業が衰退していく中で、地方自治体の財源確保、活性化についてまっとうな議論をした中で、賛成、反対を判断してほしいと思います」(福田氏)

IRにおける海外のIT活用事例

IRに関連する海外のIT活用事例として、観光分野における「クロス・マーケティング」がある。異なる事業同士で「顧客の持ち合い」をすることが本来の意味だが、カジノ業界では主にカジノ事業者から周辺地元事業者への「送客」を指す。

「IRは商業、観光、宿泊などの複合施設のため、反対論ではIRができると周りの施設の収益が吸い取られるのではと言われています。そうならないために行うことがクロス・マーケティングです。

IR施設内にすべてを囲い込むのではなく、地域の産業・商業に還元して活性化させる、共存共栄できる下地作りを、行政が入札時に事業者に『要件』としてその内容を問うこと多く、クロス・マーケティングは行政側が入札時にカジノ事業者に課してくるものです」(木曽氏)

2023年現在、世界的なIR事業者がライセンスの獲得を争っているのが、米国ニューヨーク州のIRライセンス入札。海外のライセンス業者が日本に興味を示さなくなっている理由とも言われるほど注目されている。

米国IR開発の大手企業シーザース・エンターテインメント社による「Coalition for A Better Times Square」プログラムは、タイムズスクエアにゲームとエンターテインメントのデスティネーションを誘致するため、Roc Nationとの共同入札の一環として、タイムズスクエアとニューヨーク広域で「Coalition for A Better Times Square」に参加する新しい加盟店との契約を開始。地元企業の支援に取り組んでいる。

「カジノにはロイヤルティとしてポイントシステムがあります。カジノはVIPの顧客が莫大なお金を使うため、使いきれないほどのポイントを持っています。従来はカジノの施設内でポイントを消費していましたが、そのポイントシステムをギフトカードに交換し、周辺の共同事業体の事業者に開放していくプログラムが『シーザーズ・リワード・ギフトカード・ネットワーク』で、ショッピングや宿泊など周辺の施設でカジノのポイントが使える、クロス・マーケティングの送客のための仕組みです」(木曽氏)

【AJの読み】多角的に情報を共有して、丁寧に説明していくプロセスが必要

30年近く前だが、知人を訪ね頻繁にロサンゼルスに行っていた時期があり、ラスベガスやリノのカジノに数回訪れたことがある。カジノでお金を落としてもらうためか宿泊費が他の都市よりも格段に安く、カジノそのものより、ショーなどのエンタメを含めリゾートとして楽しんでいた。

ラスベガスではNYのIR事業を進めているシーザース系の「シーザースパレス」を定宿にしていたが、ホテルはもちろん、街中のコンビニにもスロットマシーンがあり、街全体が非日常的空間で旅行として楽しむには非常に面白い場所だった。しかし、同じような施設が生活圏内に計画されているとなれば正直複雑な思いはある。

IRはラスベガスとは異なり、カジノは施設の一部で他の多くの施設が充実している印象だが、ギャンブル場があることは事実であり反対派の懸念も理解できる。しかし、経済成長のエンジンとして期待が大きい面も否めず、多角的に情報を共有して、丁寧に説明していくプロセスが必要だろう。2029年の開業を目指している大阪のIR計画の推移を注視していきたい。

文/阿部純子

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