「がんへの恐怖」から未経験の領域の会社を立ち上げる
セルクラウド 代表取締役CEO 中島謙一郎氏は、リクルートや楽天、PR会社大手のベクトルを経て、2022年4月に同社を設立した。医療系は未経験の領域だった中島氏がなぜ医療ベンチャーを始めたのか、その理由は「がんへの恐怖」だった。
「がんにかかる身内が非常に多く、がんで若くして亡くなった叔父の家では遺された家族が大変苦労したことを聞いており、子どものころからとてもがんが怖かったんです。
リクルート時代に仲の良かった同期もすでにがんで4人亡くなっています。数か月前に体の不調に気が付いて、病院に行ったらすでに多臓器に移転して手遅れだった方もいました。
子どものころからがんは身近にあった恐怖であり、さらに大人になって同世代の仲間が亡くなっていく様を目の当たりにしていたことから、自分も絶対にがんになると思っていて、先端治療などがんの情報を片っ端から集めていました。
セルクラウドを興したのは、楽天にいた時期に出会った白川太郎先生に、昨年の1月に偶然再会したことがきっかけでした。白川先生は京都大学医学部大学院の教授を退任以降、末期のがん患者のための統合医療の研究をされて、その生存率において画期的な成果をあげています。
先生から『すごい検査がある』と教えていただいたのがCTC検査。日本ではほとんど知られていないが、欧米では論文も数多く出ておりFDAも承認していて、がんの先端研究をしている人なら知らない人がいないほどの検査とのこと。
白川先生はずっと代替医療の研究をしていますが、自由診療で効果がわかりにくいため、偏見の目で見られることが多かったそうです。しかしCTC検査では血中のがん細胞の有無が明確にわかるため、今まで見えなかったものが見えてくると話されました。
CTC検査は健常者であってもがんのリスクがわかり、欧米では先端の治療・研究で使われているが、民間の商用目的の検査サービスとしては使われていないことも先生から聞きました。がんが怖い私にとっては、健常者でもがんの可能性がわかるってすごいことじゃないかと非常に興味を持ったのです。
先生からCTCの話を聞いた4か月後の昨年4月に会社を立ち上げ、白川先生(下記画像左)には取締役CMO(最高医学責任者)として参画いただき、さらに元順天堂大学医学部先任准教授で、がんの専門医であった太田剛志先生(同右)にも賛同いただいて始まりました。
システムの構築や検査センターの確保など、多くの困難もありましたが、何とか実現したいという強い想いがあり、『がんの不安と苦しみをなくす』を企業理念に掲げて開業いたしました」(中島氏)
全国の提携クリニックは100施設を超えたが今後もさらに増やし、希望者に身近な場所で検査できる環境を整えていきたいと中島氏は話す。採血だけなのでクリニックでは設備投資が一切必要なく、クリニックにあるパンフレットを見た患者が希望すれば、その場ですぐできる手軽さもある。
コロナ前は年間約37万人の訪日者が人間ドックを受けるなど、ウェルネスツーリズムとして日本は人気であることからインバウンド需要も見込む。
従来の検査では費用が50~100万円と高額で、絶食を含め検査や行動制限から、観光は1日だけという強行スケジュールのケースもあるが、マイクロCTC検査は採血だけなので時間を取られず、価格も他の全身がん検査に比べると安いことから、同社は複数のインバウンドのエージェントと契約を結び、ウェルネスツーリズムとしての活用を提案している。
マイクロCTC検査は1回19万8000円。代々木ウィルクリニックのほか、全国の提携クリニックで受検できる。予約はセルクラウドのサイト、電話のどちらでも可。採血だけで所要時間は5分程度で、事前の食事制限もない。検査から約1週間後に、PDFデータでCTC検査報告書が送付される。
「いまやがんは2人に1人以上がなる病気ですが、自分ががんになると思っている人はほとんどいないでしょう。がんは早期発見ができれば、十分治る可能性の高い病気でもあるにもかかわらず、これほど多くの人が亡くなるのは検査をしていないからです。毎年の検査が理想ですが、従来の検査は時間もお金もかかり、苦痛を伴うものもあることから、採血だけで済むマイクロCTC検査なら負担なくできるので格段に受けやすくなると思います。
症状が出てきてしまっては手遅れになるケースも多いので、いかにして早期発見できるかが重要です。仕事や子育てなどで検査に時間が取れないという方にこそ、簡単に短時間でできるマイクロCTC検査をぜひ活用していただきたいと思っています。新しいギフトの形として大切な家族にも勧めていただきたいですね」(中島氏)
【AJの読み】簡単で早く納得感も大きい!毎年受けたいが課題は検査費用
筆者は50代半ばだが、今まで一度もがん検診を受けたことがない。父は60代でがんになり、症状が出たときにはすでにステージ4で半年で亡くなったが、自分もがんになるのでは?という危機感は全くなかった。
健康的に毎日過ごしているのに、お金や時間をかけてがん検診する必要性を感じていなかったが、今回の取材で今までの甘い考えを改め、マイクロCTC検査を受けることに。検査の説明を聞いて採血するだけで、20分ほどで拍子抜けするほどあっさり終了した。
結果が出る1週間はドキドキしたが、がん細胞は検出されず陰性。検査報告書には、1次と2次のスクリーニングの解析プロセスが詳細に報告されており、安心感と納得感のある内容だった。
受検する場が医療機関なので、もし陽性になった場合、クリニックやかかりつけ医のエビデンスを持って次のステップに進めるので、簡易型の検査とは違い、その後のケアという点でも安心感がある。
これなら毎年受けたいと思うが、ネックは20万円近い検査費用。今後検査の数が増えていくことで、価格が下がっていく可能性もあるということだが、せめて半額にまで下がって欲しいと願うばかりだ。
文/阿部純子