■連載/阿部純子のトレンド探検隊
増殖の過程で血中に漏れ出るがん細胞を捕捉できる先端検査
国立がん研究センターのがん対策情報センターによる推計値では、日本人の2人に1人以上が生涯でがんになり、3人に1人はがんで亡くなっている。
医学の進歩で、がんは初期に見つかれば治る可能性が十分高いにもかかわらず、40歳以上では43%以上ががんで亡くなっており、その背景には、がん検診を受けていない現状がある。
受検率が低い理由として、「忙しくて受ける時間がない」「費用がかかり経済的な負担が大きい」「検査に伴う苦痛が不安」といった理由が挙げられる。がんは全身のどの部位でもなる可能性があり、全身のがん検査をすると丸1日以上かかり、30万円近い費用を負担しなければならない。
自宅でできて痛みも伴わない、唾液や尿などで行うがん検査もあるが、間接的にがんのリスク指数を提示する早期リスク判断では、リスクをおおまかに指摘されるため、具体的に今、どうなっているのか知りたいという希望には応えられていない。
従来のがん検査の課題をクリアした新サービスが、医療ベンチャー「セルクラウド」が提供する、たった1回の採血だけで全身のがん(血液がんを除く)リスクを発見できる「マイクロCTC検査」。
今年3月からMakuakeにて先行販売を開始し、公開から30日で医療・検査関連プロジェクトの応援購入総額において5600万円超と過去最高額を更新し注目を集めた。
CTC検査のしくみ
人は1日で5000~6000個のがん細胞が生まれるが、自身の免疫で退治している。しかし免疫力の低下でそのバランスが崩れるとがんが育ち始める。がん細胞の大きさが1㎜ほどになると、がんは血液中のブドウ糖を得るため新生血管につなぎ、栄養を吸い取り増殖していく。
増殖の過程で、新生血管を通じてがん細胞が血管内に漏れ出して血中を循環するがん細胞が「CTC(血中循環がん細胞=Circulating Tumor Cell)」。血中のがん細胞を検出することで、 全身のがんのリスクを細胞レベルで発見することができる最先端のがん検査がCTC検査だ。
CTCの概念は150年ほど前から知られていたそうだが、人間の血液4~5Lの中からわずか数個のがん細胞を取り出す方法に課題があった。しかし近年の技術の進歩でCTCの捕捉が可能になる技術が登場した。
日本国内での認知度はまだほとんどない状況だが、欧米では既に2万9000もの関連論文が発表され、米国セルサーチのCTC検査はアメリカ厚労省にあたるFDA(食品医薬品局)からも承認を受けており、一般的な医療として広がっている。
セルクラウドの「マイクロCTC検査」
マイクロCTC検査はCTC検査をさらに一歩進めたもので、悪性度の高いがん細胞のみを捕捉する。
最初がんは悪性度の低い上皮性のがん細胞のみだが(骨・筋肉のがんを除く)、悪性化していく過程で「上皮間葉転換」と呼ばれる形質変化を起こす。細胞同士の接着性が弱まってどんどん自由な動きをするようになり、血液に乗ってより遠くへ行き定着していき、体中に転移していく。
マイクロCTC検査のポイントとなるのが、アメリカの「MDアンダーソンがんセンター」の開発した、CSV(細胞表面ビメンチン)という特殊抗体を使うことで、浸潤、転移の高い能力を持った「間葉系のがん細胞」だけを特定することができる。
現在のがん検診はPET、CT、MRI検査などがあるが、すべてを網羅することができず、部位別に検査すると時間も費用もかかるため、忙しい、時間がないと理由で検査を受けない人も多いが、マイクロCTC検査は1回の採血だけなので手軽にできる。
また、マイクロCTCは血液中に漏れ出したがん細胞の個数まで提示するので、血液全体では、採血で補足された数×1000倍のがん細胞がいるとわかり、明確さも簡易的な早期リスク検査と異なる。
健康な状態で受診するケースが多いと想定されるが、がん細胞を捕捉するために使われているCSV(細胞表面ビメンチン)抗体の特異度(がんでない人が陰性となる正確性)が94.45%(MDアンダーソンがんセンター調べ)と非常に高く、大きな納得感も得られる。
東京に自社の検査センターがあることも大きなメリット。国内のがん専門クリニックでは海外の施設に検査用の血液を送っている施設もあるが、採血して現着するまで3~4日かかる。セルクラウドの検証では50時間ほど経過すると遠心分離ができない状態になり、がん細胞を取り出すことも難しくなるという。同社は日本全国のクリニックと提携して採血を行い、遠隔地でもほぼ翌朝には検査センターに到着するので、鮮度の高い状態で検査ができる。
どんな人におすすめの検査?
がん細胞は初期段階で見つけるのは非常に難しく、半年、1年の間に進行してしまうこともあり、安全な段階で発見できる時間はそう長くない。仕事や子育てで忙しい時期だと、数年検査をしないうちに進行しているというケースも考えられる。
また、喫煙者なら肺だけ、女性なら乳がんだけなど、気になる部分のみ受ける場合も多く、定期的に全身のがん検査をしている人は非常に少ない。マイクロCTC検査は全身のがん細胞のリスクがわかるため、がん細胞が見つかったときは改めて別の検査をすることで早期発見につながる。
PET、CT、MRといった画像検査だと医療被爆のリスクがあるが、採血だけなので妊娠中でも検査ができ、安全で簡単に全身がん検査を受けたいと思っている人におすすめだ。
CTC検査はがんの再発の早期発見にも有効ということが「MDアンダーソンがんセンター」の研究論文で発表されており、がんの経験者がマイクロCTC検査を定期的に行うことで再発リスクの早期発見にも使える。
「がんと診断された時点でCTCの数により治る可能性がどのくらいか、治療中でもCTCが出続けている人、減っていく人によって予後が変わるため医療方針の変更にも関与するなど、CTC検査は様々な使い方があります。
マイクロCTC検査で判断できないのは血液のがんですが、血液のがんは採血すれば白血球が異常に高いなどすぐに判断できるため、特殊な検査は必要ありません。
アメリカではがんの治療・研究現場においてCTC検査は一般的ですが、がん罹患者以外の民間の健常者に対する検査のサービスはほとんどなく、マイクロCTC検査は民間向け検査として日本では初めて、世界でも数少ないサービスといえます。
マイクロCTC検査は1次的なスクリーニングですが、もし陽性で出た場合は既に身体のどこかにがんがある、もしくは将来的にがんになる可能性が高いので、これをきっかけに自身の体に向き合って、定期検診を受けたり、日々の生活改善など意識を変えて、異変があったら早めに気づいてもらうように注意喚起できると考えています」(セルクラウド執行役員 マイクロCTC先進医療研究所所長 太田剛志氏)