三菱自動車が新たに発売した軽自動車「デリカミニ」に、メディア向け試乗会で乗ってきた。一言で言って、よくできている。スーパーハイトワゴンと呼ばれる背の高い箱型の軽自動車として完成度が高い。
「デリカミニはオフロードをガンガン走るクルマではありませんが、安心感を感じられるものにしました」
完成度の高い「デリカミニ」、では次の展開は?
開発担当者が説明するように「デリカミニ」は仕上がっていた。日常的な使い途でも、快適に使えるだろう。実際に好印象を得られたのは用意された土の未舗装路ではなくて、試乗会場を出てすぐのアスファルト舗装の一般道だった。舗装のつなぎ目や小さな段差などを乗り越えたり、交差点でハンドルを切ってもピョコピョコ動くようにも感じられず、ボディーは落ち着きながらタイヤだけが上下動している感じだ。165/60R15という大径サイズのタイヤと専用ショックアブソーバーの効能が働いているのだろう。
操作系統やインフォテインメントなども、最近の日産・三菱連合の軽らしく、見やすく、使いやすい。前方視界が優れているのに対して側面から後方への視界が限られたり、凹凸のある未舗装路に乗り入れると、途端に安定性が心許なくなるなど、スーパーハイトであるが故の弱点はあった。乗車位置と重心が高いことの必然的な結果だ。仕方がない。了承しながら乗れば、不満を抱くことはほとんどなくなるだろう。
「デリカミニ」に試乗した時に考えていたのは、「デリカミニ」だけのことではなくて、軽自動車全体のことだった。つまり、「デリカミニ」は目論見通りに仕上がっていて不満はないのだが、では次の展開を考えるとなかなか思い浮かばないのだ。
思い浮かぶのは、すべての軽自動車はOEM化したほうが良いのではないかということだった。OEMとは、Original Equipment Manufacturingの頭文字で、異なったブランドごとに同じ製品を生産することだ。エンブレムは違っているが、中身はほぼ一緒なクルマになる。軽EVの日産「サクラ」と三菱「eKクロスEV」、トヨタ「86」とスバル「BRZ」、フォルクスワーゲン「ゴルフ」とアウディ「A3」など、いくつもの例を挙げられる。
上記のクルマのように、同じグループ内で共通プラットフォームを用いて違ったクルマを造り分ける例は珍しくない。ブランドやメーカーが異なっても、近しい需要をそれぞれ抱えているならば、融通して造り分けようという例は昔からたくさんあった。しかし、軽自動車にはOEM化をより強く推進すべき理由がある。それは、ボディサイズやエンジン排気量、最高出力などの規格が法律によって定められているということだ。
メーカーはその規格の中で切磋琢磨しているのだが、最近の軽自動車の良好な仕上がり具合を反芻してみても、ほぼ完成の域に達している。どれに乗っても悪くないし、それほど大きく違うわけでもない。それでも、他メーカーの製品とは違った(と思えるような)軽自動車を送り出さなければいけない(と思い込んでいる)から、違いを出そう出そうと“開発”が止まることがない。
各メーカーが同じ規格のクルマを造るのに、小さな違いを巡って開発し合っているのは合理的ではない。中には違いを出すことが目的化している場合もある。
軽自動車の存在意義は、ミニマムな移動手段であることにあり、所有や使用、維持や管理などの負担が極力小さくなければならない。まず第一に、弱者に寄り添うクルマであるべきだ。その基本に立ち返りながら、プラットフォームをひとつに絞って、そこから各社がOEM車として派生させていけばよい。
保険や税金や通行料金などが安く抑えられ、他にもさざまな優遇措置を受けている軽自動車は純粋に人々の移動手段でなければならない。商品ではあるけれども、社会的な存在意義はとても大きい。“運転の楽しさ”や“喜び”などを訴求し、販売台数を増やそうというは、結果的に得られるのならまだしも、二の次、三の次の話だ。
だから、売るためのマーケティングなど介在する余地はない。移動や運搬に於いて、人々の役に立つことだけを念頭に設計、開発されるべき。そのためには、ほぼ完成の域に達していると思われる現在の軽自動車に、差異を出すためだけの“開発”は要らない。