シチズンといえば光発電エコ・ドライブ。それは、太陽光だけでなく蛍光灯などの室内の光も電気に変えて時計を動かし、さらに、余った電気は充電できる、という機能を実現させたシチズン独自のテクノロジー。現在、シチズンブランドの全腕時計中エコ・ドライブが占める比率は、金額ベースで8割以上というのだから、まさしくシチズンの基幹技術。
中でも大ヒットしているのが、 “構造色文字板”の時計で、世界をつなぐ海のブルーをイメージした「UNITE with BLUE」が共通テーマになった6ブランド7モデル。6月10日に数量限定で発売がスタートしたが、すでにメーカー在庫完売モデルもあるという人気の高さ。そのヒットの秘密を探ってみよう。
大ヒット中。シチズン「UNITE with BLUE」全7モデル
光があるから動く時計、自然界の色で魅せる文字板
「エコ・ドライブの時計にふさわしい文字板の素材を常に探しているんです」。そう語るのはシチズンの製造技術センター外装開発部の山影大輔さん。商品企画担当者やデザイナーとともに山影さんが構造色文字板の開発をスタートさせたのは2020年のこと。構造色文字板の時計の開発ストーリーは、そこから始まる。が、その話の前に、エコ・ドライブと構造色についての「基本のキ」を解説しておこう。
■基本その1/シチズン エコ・ドライブの仕組みとこだわり
エコ・ドライブは「文字板」「ソーラーセル」「IC」「モーター」という4つの基本要素で構成されており、時計が動く仕組みは次のような流れになる。
まず、光が文字板を通過してソーラーセルに届くと電気エネルギーに変換される。変換されたその電気エネルギーがICの指令によってモーターに伝わり、歯車や針(つまり時計)が動き出す。その際、駆動に必要な電気以外は二次電池に蓄えられる。
この仕組みによって、「わずかな光で充電できる」「定期的な電池交換がいらない」「フル充電すれば暗闇でも6ケ月以上動き続ける」というエコ・ドライブの機能が実現している。「エコ・ドライブ」というネーミングからもわかるように、これはシチズンが抱く“環境にやさしい”こだわりから研究されたメカニズムなのだ。
■基本その2/構造色
構造色とは、物質の“光の波長程度”の微細構造によって生じる発色現象。物質自体に色素がなくても、物質の微細な構造により光が干渉・分光することで発色して見える。自然界では、モルフォ蝶、タマムシ、貝殻などに見受けられる。鮮やかな色彩が特徴でもある。
この構造色を発現させ、意匠性の高い加飾印刷を可能にする「構造色インクジェット技術」を開発したのは富士フイルム。同技術は、構造色の鮮やかで多彩な色合いをインクジェット印刷で自在に表現でき、透明な樹脂やガラスの装飾などにも適するという特性をも備えている。
(資料・写真提供:富士フイルム)
エコ・ドライブ×構造色文字板の開発の始まり
「富士フイルムが開発した構造色インクジェット技術をエコ・ドライブの文字板に取り入れられないだろうか」と、外装開発チームが検討し始めた2020年の春。そのタイミングで、バイオミミクリーという生物の形態や構造から学んだ手法や技術を取り入れたダイヤル(文字板)表現を探していた企画・デザインチームから声がかかった。それは、「自分たちがコンセプトとしているバイオミミクリーと富士フィルムの構造色インクジェットの技術が合致するのでは」というものだった。
そこから、本格的にスタートした構造色文字板の開発は、富士フイルムの開発者たちの積極的な協力を得ながら、文字板に再現する構造色の可能性を細かく検討していくという試行錯誤の毎日だった。そして、構造色文字板を採用した腕時計の第1弾が発表されたのは、約2年後の2022年3月。レディス・ウォッチブランド『CITIZEN L(シチズン エル)』から登場したのだった。
『CITIZEN L』のシグネチャーライン『アンビリュナ』から発売された構造色文字板のモデル。
実は、それ以前にも、構造色をエコ・ドライブの文字板に採用できるのでは、と山影大輔さんは考えていた。素材を探しに参加した展示会で目にした構造色のシートなどでもエコ・ドライブ文字板としての可能性を探ってみたものの、残念ながら製品化には至らなかった。
ではなぜ、富士フイルムの構造色インクジェット技術では実現できたのか。その根本的なポイントは“デザインの自由度”にあった。
光を導く役目を果たす文字板に美しさを求める
1976年に世界初となるアナログ式光発電腕時計「クリストロンソーラーセル」を発売して以来、シチズンはさまざまなエコ・ドライブ製品を創出してきた。その進化は、心臓部のムーブメントだけでなく、腕時計の顔ともいうべき文字板にも及び、多彩な表現を目指した開発が重ねられてきた。そこには、装飾品としての腕時計の価値を下げてはいけない、という開発者たちの思いがあった。
しかしながら、ただ美しければOK!というわけにはいかない。その理由は、前述の「基本その1」のエコ・ドライブの仕組みにある。エネルギーに変えるための光を最初に受けるのは文字板。その下に装置されたソーラーセルが発電を行うためには、文字板が光を透過させなければならない、という絶対条件があるのだ。
「時計を動かすためには通常20~30%程度の透過率が求められます。しかし、そもそも構造色は色素をもたず、その構造に光が当たることで発色する仕組みのため、透過率が高く、エコ・ドライブと相性がいいのです」と山影さん。その上で富士フイルムの構造色インク技術の場合、もうひとつ大きな特長があった。
それは、以前、試した構造色のシートは模様もない単色に限定されていたため、文字板デザインの自由度がなかったが、富士フイルムの構造色インク技術で印刷した文字板は、構造色を自在に描画できるため、さまざまな色味のパターン表現や、色の濃度を変化させたグラデーション表現も可能。美しさの追求にも十分に応えてくれるものであったというわけだ。
腕時計の審美性を問う上で欠かすことのできない文字板の開発に取り組む
常にエコ・ドライブにふさわしい文字板の素材を探し続けているという山影さんが担当したエコ・ドライブの文字板には、和紙を用いたモデル、さらに和紙に藍染を施したモデル、白蝶貝を使用したモデルなどがある。
『ザ・シチズン』から発売された土佐和紙に藍染を施した文字板のモデル。
そこに今回(6月10日発売)新たに加わったのが、多彩なブルーが幻想的に輝く構造色文字板を採用した全7モデル。それぞれが個性的なデザインになっている。
冒頭でお伝えしたように大ヒット中だが、その理由のひとつは、これまでの文字板にはない鮮やかな色彩が人々を魅了するからだろう。そして、その色彩を生み出しているのが自然界にある構造色という現象だということが、エコ・ドライブの発想と軌を一にしているのも面白い。
光さえあれば世界中のどこにいても動き続けるエコ・ドライブ。太陽電池を採用した時計に真っ先に取り組んだシチズンの進化するプライドが、その美しく鮮やかなブルーの文字板には秘められている。
大ヒット中! 構造色文字板を採用し世界をつなぐ美しい海を表現した「UNITE with BLUE」全 7 モデル
『シチズン エクシード』、『シチズン アテッサ』、『シチズン プロマスター』、『シチズンコレクション』、 『シチズン クロスシー』、『シチズン エル』の6つのブランドから数量限定で発売されている。参考価格: 44,000〜220,000 円
<問い合わせ先>
https://citizen.jp
シチズンお客様時計相談室 フリーダイヤル 0120-78-4807
取材・文/堀けいこ