それはAIの話なのか、人間の話なのか
AIについて、目に見えないところで多く使われているにも関わらず、いまひとつ乗りこなせていないことに起因する不安を運用でなんとかしていこうという動きも見られます。今は生徒や学生にとって夏休みの季節でもあり、主にChatGPTを対象に指針やガイドラインが作られ、公表されています。
参考:文科省、生成AIの学校向けガイドライン公表 「限定的な利用から」(7月3日、毎日新聞)
参考:生成AIの取り扱い 大学に指針を作るなどの対応促す通知 文科省(7月13日、NHK)
距離感をもって使っていこうというところはその通りですが、記事中の「誤りを含んだ生成AIの回答を教材として使い、その性質や限界を児童生徒に気づかせるなどの活用が考えられる一方、情報活用能力が十分育っていない段階で自由に使わせるのは不適切と記されている。」という箇所に全てが語られているように思います。
ですが、できれば早いうちから使わせて、生成AIは単なる道具でしかないと体感できるほうが、その先においても有効であると感じます。
なぜならば面白いことに、AIが使われれば使われるほど、それに対して慎重に扱おうとするほど人間側の適応力がアップし、社会が変容する下地になるからです。
どういうことかというと、生成AIに指示をするプロンプトの習熟が巡り巡って「他人に正確に物事を伝えるにはどうしたらよいか」の参考となり、生成AIが出力する内容に疑問を持って精査をする中で「人間からの出力も同様の確かさでしかないのではなかろうか?」と事実に目を向ける機会になっているとも言えるのです。
これまで人間がなあなあでやってきたことやちょっとした欺瞞にメスが入り、非効率だったワークフローに手が入り、気がつくとそれまで習慣化でしかなかった行動が、あたらしくルールメイキングされ、変容していく可能性があります。
ちょうどハリウッドでは俳優がストライキを決行しており、その焦点はストリーミング配信やAIであると報道されています。これもDXに伴うルールメイキングをどうするかという話です。
参考:ハリウッド俳優組合、43年ぶりスト 日本の配信にも余波(7月14日、日経新聞)
参考:ハリウッド俳優組合、14日からスト決行 エンタメ界の混乱拡大(7月14日、ロイター)
ストリーミングという新しいビジネスモデルに対し、労働者はどういう配分を受けるべきなのか。AIについても、昨日今日に始まったことではなく、俳優をCGに置き換えることによって発生する俳優の機会損失やそれにまつわる労働問題をどう解消していくのか。何度も議論に上っていたことの延長線上にあります。クリエイティブに関わるAIが急速に発展したことにより再燃したとも言えます。
DXの痛みを乗り越えるために使えるものはAIでも使え!
今回紹介した3つの事例(マイナンバーカード、SNS、生成AI)は皆、違うジャンルの話のようで、このあたりは同じ話に見えてきます。
新技術の誕生そのものが人間の脅威となるということではなく、それによって変容せざるを得ない人間の、ルールメイキングがなされ、UI/UXが整うまでの拒否反応が形になったものといえます。
行政サービスでは(1)〜(4)で提示した内容が満たされる頃には、ICカードで鉄道の改札機を通るのと同じような自然さで、マイナンバーカードを読み取り機にかざす様子が至るところで見られるでしょうし、SNSではファクトチェックのきっかけづくりを人間がやりつつ、エビデンスを拾って提示するのはAIの役割にする、といった新たなUIが考えられます。
今の痛みを無事に乗り越えて、来るべき未来に備えられれば良いなと思っています。
さて、DIME本誌では小説『TOKYO2040』最新話が掲載されています。そこにAIがあることを気にせずに生活できるほど、AIが浸透している社会。DXで変わっていくこと、かわらないままがよいもの、織り交ぜて劇中舞台に込めておりますので、ぜひお読みください!
文/沢しおん
作家、IT関連企業役員。現在は自治体でDX戦略の顧問も務めている。2020年東京都知事選に無所属新人として一人で挑み、9位(20,738票)で落選。
このコラムの内容に関連して雑誌DIME誌面で新作小説を展開。20年後、DXが行き渡った首都圏を舞台に、それでもデジタルに振り切れない人々の思いと人生が交錯します。
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