■連載/石野純也のガチレビュー
日本参入を表明した米スマホメーカーのOrbic(オルビック)だが、同社のラインアップは多岐に渡る。スマホの派生ともいえるAndroidタブレットはもちろん、PCやChromebook、さらにはスマートウォッチにイヤホンと、幅広いモバイルデバイスを手がけているメーカーだ。実際、日本参入時には、スマホだけでなく、タブレットやワイヤレスイヤホンも発売する。
8インチタブレットの「TAB8 4G」は、そんな端末の1つだ。名称に「4G」と入っていることからもわかるように、同モデルはモバイルネットワーク対応モデル。タブレットと言えばWi-Fiモデルが多い一方で、外出先でテザリングする必要があるなど、利用には手間がかかる。キャリアの取り扱いも少なく、選択肢は限定的だ。このような市場のすき間を狙った商品が、TAB8 4Gだ。
モバイルネットワーク対応というと、価格が上がってしまうのが一般的だが、同モデルの想定価格は2万7800円とリーズナブル。チップセットにはクアルコムの「Snapdragon 680」を搭載しており、パフォーマンスも上々だ。とは言え、これだけ安いと本当に使えるかどうか不安を覚える向きもあるはずだ。そこで、発売に先立ち、本機を試用してみた。そのレビューをお届けしよう。
日本に上陸したOrbicのラインアップ第一弾に含まれるTAB8 4G。リーズナブルな価格とコンパクトさが魅力だ
手にフィットするコンパクトさだが、重さやベゼル幅はトレードオフか
TAB8 4Gは、その名のとおりの8インチモデル。タブレットといえば、10インチ前後の端末が多いが、8インチ前後のものはコンパクトモデルとして根強い人気がある。カバンの中にすっきりと納まるのはもちろん、持ちやすいのもメリット。電車の中でサッと取り出すような時に、取り回しがしやすい。TAB8 4Gも、まさにそのようなサイズ感。片手でギュッと握って持ち運べるのは、10インチ前後のタブレットにはない気軽さだ。
写真のように、片手でガシっと握ったり、カバンに放り込んでおいたりするにはいいサイズ感だ
8インチとなると、片手持ちで画面の端をタッチするは厳しいものの、キーボードを右下(ないしは左下)に寄せるように設定すれば、片手での文字入力は可能。サイト閲覧時のスクロールに関しても、両手を使わずに済ますことも可能だ。コンパクトなスマホに比べると、片手操作でできることはある程度限られてくるが、両手持ちが必須というわけではない、絶妙なサイズ感と言えるだろう。
キーボードを画面端に寄せれば、片手でも文字入力などの操作ができる
重量は416gで、スマホよりは重い一方で、10インチ台のタブレットやPCよりは軽く仕上げられている。荷物がかさばらないだけでなく、重くなりすぎないのもうれしいポイント。片手持ちした際に疲れにくいのも、軽さゆえだ。ただし、同じ8インチ台のタブレットとして代表的なiPad miniよりも100g強重い。8インチタブレットとして劇的に軽いわけではない点には、注意が必要だ。
背面は、樹脂製でザラッとした加工が施されているため、手から滑り落ちる心配が少ない。高級感まではないものの、ツルツルとしたプラスチック感はなく、安っぽい印象を与えないよう、デザインされていることがわかる。アルミなどの金属を使ったボディと比べると、手のひらへの当たりも優しく、持ちやすい印象だ。
背面はマットな質感。樹脂製で高級感はないものの、安っぽさは感じさせない
ザラっとした凹凸がついているため、手触りがよく、指紋が目立ちにくい
ディスプレイの周りは、ややベゼル(額縁)が太い。特に上下は、黒いベゼルが目立つ。タブレットの場合、あまりベゼルが細すぎると操作に影響を与えてしまうが、映像への没入感は高まる。ハイエンドのものになればなるほど、ベゼル幅は抑えられているため、この部分は価格相応と言えるだろう。
ディスプレイ周りのベゼル、特に上下のそれはここ最近のハイエンドモデルに比べると厚めと言えるだろう
解像感はやや足りないが動作はスムーズ、生体認証もほしかった
同様に、ディスプレイは解像度が1200×800ドットのHD+で、やや粗さが目立つ。6インチ前後のスマホであれば、HDでもある程度近づかなければドットは視認できないが、8インチになってくると、やはり文字などの精細感は欠けて見える。こうしたスペックの低さも、価格とトレードオフになっている点と言えるだろう。フレームレートが60Hzにとどまっているため、スクロールなどがカクカクすることがあるのも難点だ。
とは言え、アプリは比較的スムーズに起動し、キーボードなどの表示もまずまずの速さ。試作機のためか、「Geekbench」などのベンチマークアプリはインストールできなかったが、パフォーマンスは低くない。これは、TAB8 4Gがミッドレンジモデル向けのSnapdragon 680を採用しているためだろう。チューニングがもう少し進めば、上記のようなスクロールのカクツキが減っていく可能性もある。
仕様面で少々残念なのは、生体認証に非対応な点だ。指紋センサーが搭載されていないのはもちろん、顔認証にも非対応。そのため、画面ロックをかけると、解除する際にパスコードやパターンをいちいち入力する必要がある。かつてのスマホでは当たり前の仕様だったが、生体認証対応モデルがほとんどになった今、手動での入力にはなかなか戻りづらい。
生体認証に対応していないため、ロック解除にパスコードやパターンの入力が必要になる
指紋認証にはセンサーなどのデバイスが必要になり、実装にはコストもかかるが、顔認証ならソフトウエアでの対応だけで済む。開発費はかかるものの、指紋認証よりは簡易に導入しやすい方式と言えるだろう。生体認証がないと、ロック解除が面倒なだけに、アップデートでの対応には期待したいところだ。
背面には、1300万画素のカメラが搭載されているが、画質は最近のスマホに比べると、一段、二段劣る。わざわざタブレットで撮影する人は少ないため、大きなマイナス評価になるわけではないが、あくまでオマケと捉えておくようにしたい。ただし、QRコードの読み込みなどにもカメラは必要になる。写真撮影ではなく、実用性を重視したカメラとしての使いどころは少なくないだろう。
カメラで撮った写真。発色がイマイチで、精細感にも欠ける印象。メモやQRコードなどを読み込むためのカメラと考えておいた方がいいだろう
8インチタブレットを生かすモバイルネットワーク対応、UIには改善の余地も
こうしたスペック以上に強調したいのが、TAB8 4Gがモバイルネットワークに対応していることだ。SIMカードを入れれば、Wi-Fiがない環境でも通信できるのは大きなメリットと言えるだろう。特にTAB8 4Gのような8インチタブレットの場合、10インチ台のタブレットよりも外出時のすき間時間で利用することが増える。電車の待ち時間にメールをチェックしたり、カフェでくつろぎなら動画を見たりと、活用の幅は10インチ台のタブレットより広い。このような時に、都度Wi-Fiに接続するのは面倒だ。
4Gまでだがモバイルネットワークに対応しており、いつでも通信できるのがうれしい
残念ながら5Gには対応していないものの、混雑時や人が密集している場所でなければ、十分なスピードは出る。2回線持ちの負担を嫌がる人もいそうだが、MVNOや大手キャリアのオンラインブランドであれば、月額料金は3GBで1000円以下に抑えることも可能。メイン回線に大手キャリアのメインブランドを契約している人なら、タブレットを併用できる安価な料金プランを選択してもいい。ランニングコストはかかるものの、利便性は大きく上がると言っていい。
そして、SIMカードスロットとは別に、microSDカードにも対応する。本体内蔵のストレージが32GBと少ないため、写真や動画、音楽といった比較的サイズの大きなデータを持ち運びたい時には、ある程度容量の大きなmicroSDカードを挿しておくといいだろう。microSDカードは、最大で1TBのものに対応する。あまり容量が大きいとコストがかさんでしまうが、拡張性がきちんと担保されている点は評価できる。
SIMカードスロットにはmicroSDカードも挿せる。最大1TBまでストレージを拡張できる
一方で、タブレット的なユーザーインターフェイスにはまだまだ課題が残る。例えば、GmailやGoogleカレンダーといった標準アプリは、ランドスケープモードでのカラム表示に非対応だ。よりコンパクトなPixel FoldやGalxy Z Fold4などでは、本体を横位置すると、2カラム表示になるアプリが多く、Gmailであればメールの一覧を左に、その中身を右に表示することができる。Chromeもタブ表示には非対応だ。
ホーム画面は横長のレイアウトに対応しているが、アプリはスマホと同じUIになる。
アプリ側がタブレットスタイルの表示に対応していないこともあり、8インチの画面が十分生かされていないのは残念だ。横位置で使うタブレットというより、縦位置で使うスマホのディスプレイサイズを引き延ばした端末のような印象も受ける。こうした課題はあるものの、2万円台でモバイルネットワークに対応したタブレットは貴重な存在。大きな画面を気軽に持ち運びたい人には、いい端末と言えそうだ。
【石野’s ジャッジメント】
質感 ★★★
持ちやすさ ★★★★
ディスプレイ性能 ★★★
UI ★★★
撮影性能 ★★
音楽性能 ★★★
連携&ネットワーク ★★★★
生体認証 非対応
決済機能 ★★
バッテリーもち ★★★★
*採点は各項目5点満点で判定
取材・文/石野純也
慶應義塾大学卒業後、宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で活躍。『ケータイチルドレン』(ソフトバンク新書)、『1時間でわかるらくらくホン』(毎日新聞社)など著書多数。