『咽ぶ』は読める人が少ない難読漢字で、『歓喜の涙に咽ぶ』や『泣き咽ぶ』といった使い方をします。どのような意味があり、何と読むのが正しいのでしょうか?例文を挙げながら、咽ぶの意味や類語、使い方を紹介します。
「咽ぶ」ってどう読むの?
「咽ぶ」の読み方
『咽ぶ』の読み方は、『むせぶ』です。咽は、音読みでは『イン』『エツ』『エン』、訓読みでは『のど』『むせぶ』と読みます。咽喉(いんこう)や咽下(えんげ)など、咽がつく言葉の多くは口や口の動きに関連があります。
- 咽喉:咽頭と喉頭のこと、喉。
- 咽下(嚥下):口の中の物を飲み下すこと。
※出典:
咽喉(いんこう)とは? 意味や使い方 – コトバンク
嚥下(えんげ)とは? 意味や使い方 – コトバンク
むせぶは、『噎ぶ(むせぶ)』と表記する場合もあります。『噎』は、『食べ物が喉に詰まる』『ふさがる』『心配や悲しみのあまり胸が詰まる』という意味を持ちます。
「咽ぶ」の意味
『咽ぶ』には、以下のような意味があります。
- 飲食物を喉に詰まらせたり、煙を吸い込んだりして、息苦しくなる。また、そのようになって咳き込む。むせる。
- 込み上げる感情で息が詰まる。また、息を詰まらせながら泣く。
- むせび泣くような声や音を立てる。
- 水の流れがつかえる。また、つかえて水音を立てる。
『息を詰まらせながら泣く』というと、悲しく苦しいイメージがありますが、『歓喜の涙に咽ぶ』や『熱涙に咽ぶ』といった使い方もします。感動やうれしさのあまり、涙がこらえきれなくなっている場面が思い浮かぶでしょう。
【例文】
- 急な土埃に咽び、調査班の作業は中断した。
- 彼は友人の急死を知って、泣き咽んだ。
- このような賞をいただけて、感涙に咽ぶ思いです。
「咽ぶ」の類語・言い換え表現
咽ぶは、日常生活の中ではあまり見聞きしない言葉であるため、相手に意味が伝わらない可能性があります。咽ぶの類語・言い換え表現も覚えておきましょう。
「泣く」
咽ぶには『息を詰まらせながら泣く』という意味があり、『泣く』と意味が似ています。泣くとは、『悲しみ・苦しみ・喜びや痛さなどを抑えることができず、声を上げたり、涙を出したりする』という意味です。
喉の筋肉がけいれんして、息が詰まってしまうほど激しく泣く様は、『咽び泣く(むせびなく)』とも表現されます。
泣くには、『無理や損を知りつつ承知する』や『実際の内容と隔たりが大きく、それと名乗るのがはばかられる思いがする』などの意味があることも覚えておきましょう。
「嗚咽する」
『嗚咽する(おえつする)』には、『むせび泣くこと・すすり泣き』という意味があります。嗚咽も難読漢字の一種といえますが、咽ぶよりも見聞きする場面が多いのではないでしょうか?
嗚咽は『おえつ』という読み方から、『吐き気をもよおす』という意味に間違えられやすいようです。吐き気や嘔吐とは関連がないため、「(気分が悪い状態で)嗚咽がする」と言わないように注意しましょう。
また、嗚咽の『嗚』は『鳴』ではありません。『嗚』は、音読みで『オ』、訓読みで『ああ』『なげ(く)』と読み、『悲しんだり泣いたりする声』や『嘆く・悼む』を意味します。
【例文】
- 孫誕生の知らせを聞き、父は嗚咽をこらえきれなかった。
- 彼は、変わり果てた友人の姿を見て嗚咽した。
「咳き込む」
咽ぶには、『(飲食物を喉に詰まらせて)咳き込む・むせる』という意味があります。咽ぶはあまり耳慣れないため、日常会話の中では、『咳き込む』に言い換えてもよいでしょう。咳き込むとは、『続けてひどくせきをする』という意味です。
※出典:咳き込む(セキコム)とは? 意味や使い方 – コトバンク
【例文】
- 祖母はうどんを食べると、急に咳き込むことがあった。
- 夜間に痰が喉に詰まって咳き込むことがある。
- 食事中に咳き込む症状があれば、すぐに知らせてください。
他にもある「口へんがつく難読漢字」
口部に属する部首のうち、部首が左側にあるものは『口へん』と呼ばれます。咽ぶ・吸う・吐くのように、口へんがつく漢字は、口や口の動きに関連するものがほとんどです。普段あまり目にすることがない『口へんの難読漢字』を紹介します。
「嗽」
『嗽』は、漢字1文字で『うがい』と読みます。嗽とは、『水や薬液などを口に含んで、口や喉をすすぐこと』です。『嗽薬』は『うがいぐすり』と読みますが、漢字での表記はあまり一般的ではないようです。
一説では、嗽の由来は『鵜飼(うかい・うがい)』からきているといわれます。鵜飼とは、訓練した鵜(う)で魚を獲る漁法です。具体的には、首にひもを付けた鵜を川に放って魚を獲らせ、喉を通り越さなかった大きな魚だけを吐き出させます。
人間が口から水を吐き出す様子は、鵜が魚を吐き出す様子にそっくりなため、うがいと呼ばれるようになりました。
「嚔」
『嚔』の読み方は、『くしゃみ』です。嚔とは、『けいれん気味に息を吸った後、反射的に口や鼻から激しく息を吐き出す生理現象』のことで、『嚔が止まらない』『嚔をする』と表現します。
嚔には、くしゃみ以外に『はなひる』『くさめ』『くさみ』『ふ』とも読まれます。くさめは、くしゃみをしたときに唱えるまじないの言葉です。
昔は、くしゃみをすると鼻から魂が飛び出して早死にするという迷信があり、「くさめ、くさめ…」という呪文を唱えることで、不幸を逃れようとしたようです。その後、くさめがくしゃみに転じ、動作そのものを表すようになりました。
構成/編集部