人と人との取引となる空き家物件の売買は超アナログな作業。ネットや口コミでは読めない生の情報と空き家取引の盲点を経験者に聞いた。
1年間「家を探してます!」と言い続けて巡り会ったゼロ円のお宝物件
先輩1/藤森さん夫妻
2020年、都内の会社を辞め長野県の農業学校へ。21年より中野市に移住し、農業研修を始め、22年より本格的な農業生活をスタート。
都内から長野県中野市へ移住した藤森さん。現在の物件と出会えたのは「いいふらし作戦」が功を奏したからだという。
「農業をやろうと決めてから空き家物件を探し始めました。会社を辞め、長野県の農業学校で学ぶ間も、市の方に相談していましたが、環境の整った物件に出合えず……。そこで農業学校を出た後、中野市でアパートを借りて仮住まいを開始。市内で農業研修をしつつ、近所の方、役所の方に『いい物件はないですか』と声をかけ続けました」
そうして中野市に移住してから1年ほどがたった頃、いい空き家が見つかった。
「この町に住むんだという熱意が周囲に伝わったのか、次第に『うちが持ってる空き家、使ってみない?』と声をかけてくれるように。今は人のつながりのような、都内では経験できなかったことを楽しもうというスタイルで移住生活を満喫しています」
DATA
●総額200万円 ※購入費用:0円、初期費用(床板、天井のリノベ、水回り設備の入れ替え):190万円、その後設備投資費用:10万円
●購入期間:約半年(交渉~成約期間) ●リノベ期間:約1年(住める状態になるまで) ●目的:自宅用
欲を言えばキッチンが南向きとなるとありがたいが「古い日本家屋なので仕方ない。理想どおりにするなら新築建てればいい。今の状況を楽しむのが空き家物件の魅力」という。
キッチンやトイレなどの水回りの設備は新しいものと交換。そのほか工事は天井部分など、最小限の規模に抑えた。
空き家の登記名義に大苦戦!約300万円で実現したセカンドハウス
先輩2/市川くん
2003年、お笑いコンビ「男と女」を結成。後に「女と男」に改名。所有する空き家物件を兵庫県市川町のふるさとPR大使を務める。
「古民家を手に入れDIYを始めてみようと考え、関西で物件を探していた時に紹介されたのが今の空き家だった」と語るお笑いコンビ・女と男の市川くん。ところが空き家探しでいきなり壁にぶつかったという。
「もともと住んでいた方が亡くなられて空き家となったので、登記を見ると権利がお子さんたち全員に均等に分与されていました。皆さんへの確認が必要ということもあり、想定以上の時間をかけました。個人間の売買で購入する場合、登記の名義確認は大切だなと強く思います」
それでも個人売買で手に入れた理由とは何か。
「とにかく費用を抑えたかった。だからリノベもDIY。といっても自分は初心者なので周りの人に頼ってばかりです。でも、そうやって人に甘えられる関係が私の場合は地域とのコミュニケーションにもなり、いい関係を築けていると思います」
DATA
●総額300万円 ※購入費用:100万円、初期費用(DIY):100万円(クラウドファンディング調達)、その後設備投資費用:100万円
●購入期間:約半年(交渉~成約期間)
●リノベ期間:約1年(住める状態になるまで) ●目的:セカンドハウス用
「自宅の床を張り替える前に、うちの床でリハーサルを」などとDIY好きの人たちにネットで呼びかけ、部屋を作っている。「自分の家となると失敗できないけど、1度経験したいと思っている人は意外と多い印象です」
「当初は日帰りでDIYをすることも多かった」というセカンドハウス。「可能なら普段の自宅から90分程度で行ける距離が理想だと思いますね」
取材・文/渡辺雅史 イラスト/川﨑タカオ