帝国データバンクから、2023年6月までに発生した「物価高倒産」に関する調査・分析リポートが到着したので、その概要を紹介していきたい。
2023年1〜6月の物価高倒産は前年同期の4倍超、年間最多を早くも更新
物価上昇による影響が中小企業の経営に影を落としている。仕入れ価格の上昇や価格転嫁できないことに起因した「物価高倒産」は、2023年上半期(1〜6月)で累計375件となった。
上半期における倒産件数(4006件)のうち約1割が物価高倒産だった。前年同期(85件)から4倍超の水準に達したほか、2022年通年の320件を6月時点で上回り、年間で過去最多を更新した。
月別の発生状況をみると2023年は、4月に単月で過去最多となる75件の発生をピークに、5月(67件)、6月(63件)と緩やかな減少に転じた。
ただ、月間平均(23年1〜6月)では60件が発生しており、前年(22年1-12月)の27件を大きく上回るペースで推移した。この勢いが続いた場合、23年における物価高倒産の累計は前年を大きく上回る700件台に到達する可能性がある。
業種別に見た2023年上半期の物価高倒産
2023年上半期の物価高倒産を業種別にみると、最多は「建設業」の83件だった。木材などの建築資材に加え、人件費の上昇による影響が目立ち、総合工事や職別工事といった業種が多く発生した。「製造業」(79件)では、食材価格の高騰を背景に食品関連産業で増加した。
「運輸・通信業」(58件)では燃料費などエネルギーコストの上昇が響いたほか、「小売業」では22年上半期で発生がなかった飲食店の倒産が目立った。
「人件費」の割合、22年から3倍に急増する一方で「原材料」は大幅に低下
要因別にみると、「原材料(価格の高騰)」によるものが34.1%で最多だった。食品やアパレル関連産業で多く目立ったものの、前年同期に比べて割合は大きく低下した。原油高など「エネルギーコスト」(29.9%)も運輸業を中心に目立ったものの、全体では前年同期から微減となった。
一方で、「包装・資材」(27.5%)や「人件費」(15.2%)など4要因では、前年同期の割合を上回った。なかでも人件費の割合は、前年同期の5.2%から約3倍に拡大した。
最低賃金の上昇による人件費の増加を増収で補えなかった企業のほか、雇用確保のために賃金を引き上げたものの収益が伴わず破綻した、賃上げ難によるケースも一部でみられた。
物価高倒産の要因、「モノ→サービス価格」へ
今年5月の国内企業物価指数は27カ月連続で前年を上回るなど、コストプッシュ型インフレによる物価高が続いている。
ただ、足元では原材料価格などのコスト増加分を売価へ転嫁する動きが徐々に浸透しているほか、輸入物価などでは上昇幅にピークアウト感も出ており、原材料や資材高など「モノ」由来の物価高倒産は徐々に存在感を低下させるとみられる。
一方で、「人件費」の上昇を理由とした割合は前年同期に比べ約3倍に増加するなど、物価高倒産の要因はモノからサービスへと変化しつつある。
人件費や電気代などを中心とした「サービス価格」のコスト増については価格転嫁への理解が得にくい点も、サービス由来の物価高倒産を押し上げる遠因になっている。
時間外労働の上限規制が適用される運輸業、需要が急回復する飲食店や宿泊業では、いずれも価格転嫁が難しい一方、特に人件費負担の拡大が懸念される業種でもあり、これらの業種では特にサービス価格由来の物価高倒産が増加する可能性がある。
集計期間/2023年6月30日まで
発表日/2023年7月10日
集計対象/負債1000万円以上法的整理による倒産
集計機関/株式会社帝国データバンク
関連情報
https://www.tdb.co.jp/index.html
構成/清水眞希