演歌を全く聴かないという人でも、曲調や雰囲気すら知らないという人はいないでしょう。しかし、実は『演歌』が略称であると知っている人は、そう多くありません。演歌の正式名称と、演歌の成り立ちを日本の歴史とともに解説します。
目次
「演歌」とは何の略?
『演歌』は略称が定着してしまい、今となっては元となった名称を答えられる人の方が珍しいかもしれません。まずは、演歌の正式名称を含め、基本情報から確認していきましょう。
「演説歌」の略称
演歌のルーツとなった歌は、『演説歌(えんぜつか)』と呼ばれていました。演説歌とは、1870年代に自由民権運動が起こった際に、活動家が政治批判を歌にしたものです。
演説歌は時代の流れとともに歌詞の内容が変化し、1970年代初頭に演歌という呼称が広まったといわれています。
とはいえ、演歌が音楽ジャンルの一つとして確立されてから久しく、もはや演歌を正式名称といっても差し支えないでしょう。
そもそも「演歌」とはどんなもの?
演歌には、音楽理論的な定義がありません。しかし、多くの人が耳にしてすぐに「これは演歌だ」と判断できるように、いくつかの共通する特徴があります。
歌詞は情念や義理人情を歌ったものが多く、コブシを使ったうなり上げるような歌唱法がよく見られます。メロディーは、ヨナ抜き音階で作られていることが多いでしょう。
なお、ヨナ抜き音階とは、音階を「ひい・ふう・みい…」で読んだとき、4番目と7番目にあたる『ファ』『シ』を抜いた、『ドレミソラ』の5音階のことをいいます。
「歌謡曲」との違い
演歌は『歌謡曲』という大きな枠の中にあるジャンルの一つです。歌謡曲は日本の大衆向けの音楽全般のことで、演歌やポップ、ロックなども歌謡曲に含まれます。
もともと歌謡曲とは、明治以降になって日本に入ってきた欧米の音楽を指していたものです。その一方で、放送される大衆音楽は、全て『流行歌』と呼ばれていました。
これをNHKが、歌謡曲という名で放送したのが、現在と同じ意味での歌謡曲の始まりです。歌謡曲は演歌と混同されがちですが、ジャンル名ではなく大衆音楽を指すと覚えておきましょう。
「演歌」の歴史
演歌は日本独特の曲のジャンルの一つとして、昔から親しまれ、今でも根強い人気のあるジャンルです。日本のソウルミュージック、演歌の歴史を見ていきましょう。
プロテストソングとして誕生
演説歌の始まりは1870年代、当時は今ほど言論の自由が保障されていませんでした。政府に反発する政治演説を行うと、すぐさま圧力がかけられてしまいます。
活動家たちは自由民権運動の取り締まりをかわすため、政治を風刺する歌詞を乗せた歌で大衆へ呼びかけることにしたのです。こうして『プロテストソング』として、演説歌が誕生しました。
有名なものに『オッペケペー節』『ダイナマイト節』などがあります。軽快なリズムとは裏腹に、歌詞は手厳しい政治批判です。歌に乗せることにより、大衆の注目を集める効果もありました。
戦後は「田舎調」が人気に
自由民権運動が落ち着くと、歌詞から政治色が消え、演説歌のテーマは社会風刺へと姿を変えていきました。流行は徐々に変化し、庶民の心情を歌ったものが人気を集めます。
戦後にラジオが普及すると、上京した地方出身者が地元を懐かしむ、望郷をテーマにした楽曲が増えてきました。それまで流行っていた都会調ではなく『田舎調』が流行り始めたのです。
代表的なものに、春日八郎の『別れの一本杉』や島倉千代子の『逢いたいなァあの人に』などがあります。昭和の歌姫、美空ひばりが田舎調に近い楽曲を歌い始めたのもこの頃です。
「艶歌」ジャンルの登場
1960年頃になると、楽器を持って酒場のような場所を巡り、歌を披露する『流し歌手』が現れます。彼らの歌は、演歌と読みは同じでも、内容は夜の街に似合う『艶歌』です。
艶歌は悲恋の切なさや心中を物語る人情歌で、『つやうた』とも呼ばれます。任侠の世界観とも相性がよく、仁義や絆をテーマにした楽曲も次々と発表されました。
代表的な歌手は、こまどり姉妹や北島三郎です。北島三郎は『函館の女』や『まつり』が有名ですが、当時は『ギター仁義』『兄弟仁義』といった任侠ソングを発表していました。
日本以外にも「演歌」はある?
ジャンルを問わず主義主張を歌った楽曲は多くありますが、演歌には不思議と心に切々と訴えるような強さがあります。こういったジャンルの歌は、日本以外にもあるのでしょうか?
韓国の「トロット」が有名
日本の隣に位置する韓国には、『トロット』と呼ばれるジャンルの歌があります。このトロットは、実は日本の演歌から派生したものだとされています。
4/4拍子のリズムから、社交ダンスのフォックストロットにちなんで、トロットと呼ばれるようになったそうです。トロットは、日本では韓国演歌と呼ばれています。
トロットには恨(ハン)の感情が込められており、哀愁を感じさせる雰囲気は日本演歌の名残といえるかもしれません。トロットも海外音楽の影響を受け、独自の進化を遂げています。
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