プロ監督になれるS級ライセンス取得までの長い道のり
「日本サッカー協会(JFA)はプロの指導者ライセンスを残しつつ、ライセンスがなくても誰でも監督になれるようにするべき」という元日本代表・本田圭佑の意見がたびたび物議を醸しているが、スポーツの指導者になるためには専門的な勉強が必要なのは確かだ。
スポーツ指導の基本である運動学、コーチング学、トレーニング学はもちろんのこと、解剖学や運動生理学、運動栄養学、救急救命法といった基礎知識は身に着けておく必要がある。そのうえで、トップレベルの選手を教える場合には高度で効果的な戦術の落とし込みやチームマネージメント力が求められてくる。プロの監督というのは「非常に高いスキルを専門職」と言っていいだろう。
そういった人材育成に熱心に取り組んでいるのがJFAである。現在、彼らが設けているサッカー指導者ライセンス(一般)は6種類。講義・実技各1.5時間で取得できるキッズリーダーから、1年がかりで勉強を重ねるS級まで実に幅広い。2024年からはS級・A級ジェネラルの下に位置するエリートユースAコーチも新設され、細分化が進むことになる。
このうち、プロ監督になれる最高峰のS級ライセンスの場合、拘束期間が長いのが1つの特徴だ。集合講習会は年間62日+α。それを5回に分けて行っているので、スケジュール調整が大変だ。
それをフルでこなしたうえに、Jクラブでの1週間以上の研修、海外クラブでの2週間以上の研修にも赴かなければいけない。これらを終了後、レポートを提出し、合格判定を受けてようやくライセンスを得られるというから、長い長い道のりなのである。
受講料は33万円(税込)。遠隔地からやってくる人々は旅費・宿泊費も別途かかる。しかも2年に1度はリフレッシュ研修会を受けなければ、ライセンスが失効してしまう。つねに新たな情報をアップデートし続けないと、現場には立ち続けられないということになる。実にハードル高い資格だということを、多くの人に認識してもらえるのではないか。
目下、S級取得者は520人超にのぼっているが、今のJリーグクラブ数は60。昨季J1王者の横浜F・マリノスのケヴィン・マスカット監督を筆頭に外国人指揮官を招聘しているクラブも多く、狭き門なのは確かだ。
日本フットボールリーグ(JFL)など下部リーグや女子のWEリーグ、アジア各国のクラブに職を求める人も少なくないが、プロ監督として仕事ができていない人材も少なくない。
仮に首尾よくJクラブからオファーが届いて、現場の仕事をスタートできたとしても、いつクビになるか分からない。成功者はほんの一握り。まさに厳しい世界というしかない。