株式取引等を確定申告すると社会保険料に影響を及ぼす場合がある。
また、今年の所得から住民税と所得税で異なる課税方式を選択できなくなるため、特に自営業、その家族、フリーランスの人は注意が必要だ。
株式取引で確定申告をするときとは?
株式取引(ETF、REIT、外国株式等含む)、投資信託(株式型)で利益(売却益、配当、分配金)を得たときには、以下の方法で申告をする。
(1)NISA口座
→税制上利益は出ていないとみなされるため、非課税な上、申告も必要ない(できない)。逆に損が出たときでも損が出ていないものとされる。
(2)特定口座源泉徴収あり口座
→証券会社が損益を計算し、売却時に税金を徴収する。申告は必要ないが、税金の還付等を受けるため申告することもできる。
(3)特定口座源泉徴収なし口座
→証券口座が損益を計算し、特定口座年間取引報告書にて損益を報告してくれるが、税金は徴収していないため利益が出ていれば申告する必要がある(年末調整を受けている会社員等で給与以外の所得が20万円以下であれば所得税の確定申告義務がないなどの特例あり)。
(4)一般口座
→海外赴任等一定の事情で一般口座にある場合は、自分で損益を計算して、利益があれば申告する必要がある(年末調整を受けている会社員等で給与以外の所得が20万円以下であれば所得税の確定申告義務がないなどの特例あり)。
上記のように特定口座源泉徴収ありであれば確定申告は必要ないが、以下のとき税金の還付等うけるために確定申告することができる。
(1)複数証券会社で取引しており、損益通算したいとき
(2)年間を通して損失がでたため、損失を翌年以降に繰越したいとき
(3)配当控除を受けたいとき
(4)外国株式二重課税の申告
(1)上場株式等に係る譲渡損失の損益通算
特定口座源泉徴収あり口座では、損が出たときにそれまでの利益と損益通算して払いすぎた税金があれば還付されるようになっている。ただし、この損益通算は同じ証券口座の特定口座で行われるため、他の証券会社で損が出ていても損益通算はされない。
例えば、A証券口座では+50万円(税金101,575円源泉徴収)、B証券口座では▲50万円の場合、特定口座で約10万円の税金がA証券口座で徴収されているため、確定申告をすることによりA証券口座の利益とB証券口座の損失の損益通算することができ、源泉徴収された101,575円の還付を受けることができる。
(2)上場株式等に係る譲渡損失の繰越控除
その年の株式取引等が損失で終わったとき、その年の損失を翌年以降3年間繰り越して、以後3年間に出る利益と相殺できる。
例えば、2023年▲50万円で終わり繰越控除を行うと、2024年20万円、2025年20万円、2026年10万円と利益がでたときに税金がかからない。ただし、繰越控除をした年、以後3年間は必ず確定申告をする必要がある。
(3)配当控除
配当控除は、確定申告することで日本株式の配当金、ETFや投資信託(日本株式の比率が25%以上)の分配金に一定率かけた金額を税金から控除できる制度で、確定申告により控除を受けることができる。
ただし、もともと配当金は他の所得と分離されて課税されているが、配当控除を選択すると他の所得と総合して課税する総合課税となるため、所得が高いと税率が高くなり配当控除で余計損をする可能性がある。
(4)外国税額控除
外国株式の取引や配当金の受取りで日本国内と外国で二重に課税された場合に、日本国内で二重になっている分を税金から控除することができる。外国税額控除を受けるためには確定申告が必要になる。
上記に該当するときに、税金の還付を受けるために確定申告したところ、自営業やその家族、会社員の扶養に入っている人の場合、社会保険料が大きく上がってしまう恐れがある。
扶養に入っている場合
特定口座源泉徴収あり口座による利益は確定申告をしない限り、申告不要制度といって特定口座で源泉徴収の対象となった利益を除外することができるが、確定申告をするとその所得額に入ってしまう。
会社員の扶養に入っている場合には、年間所得金額が130万円未満を条件としている健保組合が多く、他の所得等と合わせて130万円を超えれば扶養を外れてしまう。
会社員の扶養に入っている場合、国民年金保険料と健康保険料、40歳以上なら介護保険料の支払いが不要(※)だが、扶養から外れてしまうとその支払いが必要となるため大きく負担が増え、確定申告で還付される金額より負担が大きくなってしまう可能性がある。
※介護保険料で特定被保険者制度を採用している健康保険組合は、40歳以上65歳未満の被保険者が扶養する被扶養者が40歳以上65歳未満の場合介護保険料の支払いが必要となり、実質被扶養者の介護保険料を別途支払っていることになる。
自営業、その家族、フリーランスは住民税で社会保険料が決まる
自営業またはその家族、フリーランスは、社会保険料として国民年金保険料と国民健康保険料、40歳以上60歳未満なら介護保険料を支払っている。そのうち国民年金保険料は、一定金額であるため所得の過多では変わらない。しかし、国民健康保険料と介護保険料は所得に応じて決まる。国民保険料の算定方法は、その世帯の住民税で課税される所得×〇%、世帯の人数で決まる。例えば、江戸川区の場合、国民健康保険料は世帯全体の所得金額×8%+47,100円×加入人数、世帯全体の所得金額×2.76%+16,200円×加入人数、介護保険料は
世帯全体の所得金額×2.58%+17,700円×年齢40~65歳未満の該当者数で算定され、所得に応じて課税される。
この所得には、確定申告をした場合の株式等による売却益や配当金、分配金も含まれる。
特定口座源泉徴収あり口座での所得で確定申告しない場合には含まれないが、還付等のために確定申告したときはその所得が所得に計上されてしまう。損益通算等のために確定申告をした場合最終的に利益となるときは、その利益が保険料の算定基準となる所得に算入されるため、確定申告には注意が必要だ。また、繰越控除の場合には、翌年以降は必ず確定申告が必要となってしまうため、損失のみの申告でも翌年以降の利益によっては翌々年の保険料が上がってしまう可能性がある。
(参考)
国民健康保険料の計算方法 江戸川区ホームページ (city.edogawa.tokyo.jp)
2024年(2023年の所得)の確定申告から住民税と所得税で異なる課税方式を選択できなくなる
上記のように自営業者やその家族、フリーランスにおいて株式等の申告をあえて行うと所得が増え、国民健康保険料や介護保険料が上がってしまうおそれがある。
ただ、これまでは、このような確定申告をするときに、所得税と住民税の課税方式を異なる方式で選択することができた。所得税を申告し、住民税を申告不要とすることで、所得税では申告により還付等を受け、住民税では還付等を受けない代わりに住民税の算定となる所得に株式等の利益が入らないようにすることができた。
税制改正により2024年(2023年の所得分)の確定申告から所得税と住民税で異なる課税方式を選択することができなくなる。そのため、所得税で確定申告すれば、住民税で申告不要を選択することができない。したがって、所得税の確定申告により、保険料算定の基準となる所得が上がってしまう可能性があり、2024年の確定申告から、還付等を受けるための株式等による利益や損失の確定申告をする場合には、保険料の値上がりがあるため申告自体を再考する必要がある。
文/大堀貴子