社会も経済もる程度成熟してしまった今、企業がさらなる成長にアクセルを踏むカギとして“イノベーション”の必要性が声高に叫ばれている。大企業であればどこの会社でも新規事業やイノベーションの名の付く部署があるだろうし、官公庁もこのままいけば停滞に陥ってしまう日本という国のイノベーションを求めて試行錯誤に必死だ。
イノベーションとは「新たな仕組みや習慣を取り入れ、革新的な価値を創造すること」らしいが、多くの読者があまりうまくいっている事例は思い浮かばないのではないだろうか?
なぜ日本でイノベーションが生まれないのか? 訪日外国人の数も回復してきた古都・京都それを解決するヒントを見つけたのでレポートしていきたい。
イノベーションを“創発”するアイテムが世界中から集合
6月22日、京都にある電通のイノベーション拠点「engawa KYOTO」にて世界的なリサーチファームである Stylus Media Group と連携した特別展示「POP-UP FUTURE」のオープンイベントが開催された。
Stylus はイノベーションや消費者動向に関する調査およびアドバイザリーサービスを提供するイノベーションリサーチファームだ。様々な業界の最新情報、業界トレンドシェアし。アイデア創出をサポートしている。今回の特別展示ではStylusが世界中から取り寄せたイノベーティブプロダクト(飲料・食品、生活用品、スキンケア用品、ファッションアイテム、家電用品など)が展示され、実際に触れることができるようなっている。展示は定期的に更新され、計50点以上のアイテムを展示予定だ。
「今回展示されている商品は技術的にその会社しか作れないものは外しています。アイディアや消費者のライフスタイルの変化をキャッチアップした商品を中心にセレクトしました」(Stylus Japan country manager 秋元 陸さん)
秋元さんのお話のように例えばこんなものが展示されている。
どれも現代人の価値観やライフスタイルを抑えつつ、利便性を感じさせるものばかりだ。世界で話題を呼んだプロダクトや日本初上陸のアイテムも含まれており、既存のビジネスに関わる領域だけでなく、他業界の先進のプロダクトにも直接さわることが可能だ。パンデミック以降、国際的な移動が制限されたことで世界の最新・最先端に触れることが難しくなっていた今、こういったプロダクトに実際に触れることができる機会は貴重だ。
だがもちろん、こういった商品の情報は調べれば個人でも見つけることができるし、SNSで話題になった商品もある。ただ、それがビジネスの現場でのイノベーションにつながるかというと実はなかなか難しい。たった一人のアイデアで会社を動かすのは難しいし、なんとなく流れてくる情報をみるだけでは自社のビジネスに活かせるかもという発想は生まれてこない。
不思議ではあるが、今回のイベントのように実際に手を振れ、そこから何かを得ようという人たちとリアルの場で議論する中だと、どんどん新しいヒントが見つかる。これはあくまで体感だし、何も根拠はないのだが、オンラインとリアルではこういった新しい発想やヒントの“発火”に大きな違いがあるように思う。今回のイベントでも秋元さんが強調していた「創発」のために必要不可欠な“場”の重要性を感じたイベントでもあった。
仕事に行き詰まったら、とりあえず京都へ!
今回のイベントのもう一つのテーマが「なぜ京都か?」だ。京都にはイノベーションに必要とされるアート、クラフト、サイエンスなどが集まり、日本、そして世界の中でもユニークな街として認識されている。また、日本の文化が深く根ざす歴史ある土地であり世界に対して強いブランド力を誇る。訪日外国人の急激な回復からもわかるように日本独自の価値観や文化は世界的にも注目されている。その国の個性や文化を尊重しながら多様性が共存する世界へといった動きが高まる中、京都は一つのモデルケースになっていると言っても過言ではないだろう。
電通は「engawa KYOTO」を拠点に京都で「ビジョンデザイン研修」というサービスを提供している。これは日常業務から少し離れ、京都を旅しながら改めて自社の価値を見つめ直し、次の世代を創造する。1000年以上の歴史の中で育まれた医食同源の食文化やウェルビーイングを考察するとともに、過去から未来へと継承するために変わらないモノ/変えるモノの本質に触れ、注力領域の研究と開発のこれからを考えるというものだ。
一見すると、何の役に立つのか? 遊びで終わってしまうのでは?とも思えるが、そこは使いようだ。自分のビジネスと全然違うベクトル、ジャンル、時間の流れに触れることはコロナ禍ではなかなかできなかった。イノベーションはアイデアとアイデアの掛け合わせで生まれる、向き合い方次第でこういった研修から得られるものは非常に多いような気がする。
改めてなぜ、イノベーションが生まれないのか? 京都を巡りながら考えると、その理由の一つはビジネスタームにあるように思う。日本企業では短期的(1~3年)な成果を目指す研究が増加傾向にあり、中長期的(3年以上)な成果を視野に入れた研究開発は、消極的な傾向にあるという。また、「既存技術改良型」の研究が多くを占めている一方で、リスクを伴う投資や新製品の開発など、いわゆる“破壊的イノベーション”への取り組みは弱い。これはなんとなく思い当たる節もあるのではないだろうか?
オフィスにいるとどうしても目先の仕事に追われ、視野が狭くなる。その点、京都はそれなりに大きな都市でありながら、長い歴史や伝統文化を持ち、長期的な視点に立ってやや少し広い視野でものを考えられるようになるように思える。人は明るさだけで考え方やしゃべり方まで変わるというし、結構人間はいい加減なのだ。
コロナ禍を経た今、レジャーとしてではなく、ビジネストリップとしても京都に足を運んでみてはいかがだろうか?
<開催概要>
engawa KYOTO「POP-UP FUTURE」
期間:2023年5月16日(火)~2023年12月14日(木)※土日祝除く
時間:9:00~19:00
会場:京都市下京区二帖半敷町647 オンリー烏丸ビル
※予約不要、入場無料
https://engawakyoto.com/
取材・文/石﨑寛明(DIME編集部)