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「Apple Vision Pro」で見えてきたアップルが見据える次世代のコンピューティングとは?

2023.07.09

■連載/法林岳之・石川 温・石野純也・房野麻子のスマホ会議

スマートフォン業界の最前線で取材する4人による、業界の裏側までわかる「スマホトーク」。今回は、WWDC 2023で発表された「Apple Vision Pro」について話し合っていきます。

新デバイス「Apple Vision Pro」はメタバースのためのデバイスではない!?

房野氏:アップルの開発者向けイベント「WWDC」で、新ジャンルのデバイスとして「Apple Vision Pro」が発表されて、話題を集めていますね。

石川氏:まあ、値段的にも最初はそんなに売れないと思います(アメリカでは3499ドルを予定)。まずはアプリ開発者と、アップルの熱烈なファンが買うだけ。生産もそこまで多くは行わないみたいです。

 ただ、当然チップはどんどん進化していきますし、AIやカメラ、センサーもどんどん洗練されていくので、数年後には〝Pro〟ではなく、ノーマルのApple Visionが出るでしょうし、その数年後には〝SE〟みたいな製品も出てくると思います。アップルって、後出しじゃんけんが得意な会社なんです。「Apple Watch」も、世間ではウェアラブルだと散々言われてから出して、何年もかけて市場を作っていった。スマートスピーカーも後出しでしたし、今回のVision Proもそう。

 実際に現地で試して感じたのは、いわゆるXRとかVR、メタバースのデバイスではない。アップルは〝空間コンピューター〟と言っていて、視線入力がずば抜けてすごいです。例えば、メールアプリのアイコンを見ると、アイコンが光りだして、指をポンってくっつけるだけでアプリが起動する。マウス、タッチパネルに次ぐ、ユーザーインターフェースの革新が起ころうとしているのかなと思います。世間的にはメタバースとVision Proが比較されているけど、そのレベルではない。メタバースやXRは、Vision Proのアプリの1つになっていくように、いろんなものを吸収していくデバイスになると思います。

石野氏:メタバース感は全然ないというか、アップルもWWDC内でメタバースとは一回も言わなかったんですよね。

石川氏:そう。なので、そこは意識して「我々は空間コンピューターを作った」と説明しています。ただ、Vision Proが何年くらいで普及するのかはまだ見えないですね。

 あと、感じたのはアップルが持っている技術の集大成のようなデバイスだということ。空間認識はiPhoneのカメラ技術、iPad ProのLiDARスキャナの技術が入っているし、音はAirPodsやHomePodで培った空間オーディオの技術。ベルト部分は、Apple Watchのベルトを、メーカーと組んでやることで、快適な繊維素材のものが作れている。これに対抗できるメーカーはなかなか出てこないでしょう。

法林氏:僕自身は実際に触っていないけど、発表を見て最初に感じたのは、2002年に公開されたSF映画の「マイノリティ・リポート」の世界観がようやく実現したなということ。コンピューティングの世界がいずれこういう方向に向かうことは、十数年前から言われていたことなので、自然な形だとは思うし、石川君が説明したように、メタバースの話ではない。今はディスプレイを目の前において作業をしているのを、Vision Proを被ることで、外から見えないコンピューティングの世界が簡単に作れるという話。マイノリティ・リポートが制作された当時から「実現には越えなければいけない壁がいくつもある」と言われていた。ジェスチャーはどうやって認識するのか、どうやって投影するのかとかね。

 何かを仮想的に目前に映し出す技術としては、以前、KDDI総合研究所が離れたところに居る人をホログラフィで映すという技術を公開していたけど、あれも似たような世界。おそらくVision Proも通信と絡めた世界を作っていくと思う。ただ、現実的に必要か言われると、現時点では何とも言えないかな。確かに、ノートPCとかタブレットの画面が狭いというのはわかるけど、自宅で仕事をするのであれば、27インチディスプレイを3枚くらい並べていれば快適でしょ。飛行機内とかでも広い空間が作れるとなると、面白そうではあるけど、実用化には長いスパンが必要になるよね。

石野氏:ただ、27インチディスプレイを3枚並べられるのは、広い部屋に住んでいるからでもあります。ワンルームに住んでいる学生が、部屋全体を広々と使ってコンピューティングをするといった世界観はあると思いますよ。

法林氏:というか、そもそもコンピューティングをするのに、そんなに大きな画面が必要なのかという話もあるでしょ。我々はいろんな資料とか校正を見ながら原稿を書くから、広いスペースが必要だけど、一般的には2枚あれば十分なんじゃない?

石野氏:まあ、だからスマートフォンで済んでいるという話ではありますね。

法林氏:そうでしょう。だから、そんなに広い空間が必要なのかは疑問。あと、石川君の説明にあった、視線入力もどうなんだろうと思う。視力は変わるし、眼鏡もかけるのに、この世界観のコンピューティングを一気に推し進めていいのかな。

石野氏:一応、視力矯正用にZEISSのレンズが入れられるんですけど、それが1個数万円するという話もあります。

石川氏:数万円するくらいなら、コンタクトにしようかなと思う(笑)

 ちょっと話は変わるけど、この前サーキットへ取材に行ったら、20人以上のドライバーの音声をクラウドへ上げている人がいた。その人は、音声関連の機材が多すぎて、ディスプレイを持ち運びたくないから、ARグラスの「Nreal(現在はXREAL)」を使って作業をしていました。ディスプレイがなくてもいい世界って、自分たちにはなかなか想像できないけど、そういう使い方もあるのかなと感じましたね。

スマートグラス「XREAL Air」

石野氏:Vision Proの用途としては、Nreal改め〝XREAL〟の高級版といった感じですよね。

石川氏:そう。ディスプレイとしての要素が大きいかな。

法林氏:VR、MRも違うしね。ディスプレイなのかなって感じはするよね。

石野氏:一応、現実世界に空間コンピューティングの世界を重ねているので、ARやXRの要素はありますけど、最初に受け入れられるのはディスプレイとして、という印象ですね。

法林氏:そういう風に解釈して買ってもらえるといいよね。

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