血糖降下薬のメトホルミンがlong COVIDを予防か
長年使われていて安全性の評価が確立しているメトホルミンという糖尿病の飲み薬が、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)急性期以降の症状の遷延、いわゆる「long COVID」の予防に役立つ可能性が報告された。
COVID-19急性期に2週間、同薬を服用した場合に、long COVIDの発症リスクが約40%低下し、さらにCOVID-19の症状発現から3日以内に服用を開始した場合のリスク低下率は約60%だという。
米ミネソタ大学のCarolyn Bramante氏らの研究によるもので、詳細は「The Lancet Infectious Diseases」に2023年6月8日掲載された。著者らは本研究を、薬剤によるlong COVIDのリスク抑制の可能性を示した初の研究だとしている。
メトホルミンは、1995年から米国で使われている経口血糖降下薬であり、血糖降下作用以外に抗ウイルス作用を併せ持つことが知られていた。
COVID-19のウイルス(SARS-CoV-2)の複製や伝播を抑制することを示す研究結果も報告されており、Bramante氏は、それらの知見に動機付けられて本研究を開始したという。
この研究には、2020年12月30日~2022年1月28日のCOVID-19感染者1,431人が登録された。
介入薬剤としては、メトホルミンとともに、パンデミック初期にCOVID-19に有効ではないかと考えられていた、イベルメクチンやフルボキサミンという薬剤が用いられ、それらの実薬群またはプラセボ群に無作為に割り付けられた。
そのうちメトホルミン群では、投与量が1日目は500mg、2~5日目は1,000mg、5~14日目は1,500mgと徐々に増量された。
研究参加者のうち1,126人〔年齢中央値45歳(四分位範囲37~54)、女性56.1%、BMI中央値29.8(同27.0~34.2)〕が急性期治療後の長期追跡調査に同意。
このうち93人(8.3%)が、300日後までにlong COVIDの診断を受けていた。メトホルミン群でlong COVIDと診断されていたのは6.3%、メトホルミンのプラセボ群では10.4%であり、41%の有意なリスク低下が観察された〔ハザード比(HR)0.59(95%信頼区間0.39~0.89)〕。
この結果は、事前に設定されていた、年齢、性別、肥満の有無などで層別化された全てのサブグループで一貫していた(交互作用が全て非有意)。
また、COVID-19の症状発現後3日以内にメトホルミンの服用を開始していた患者群では、63%というより大きなリスク低下が認められた〔HR0.37(同0.15~0.95)〕。
なお、イベルメクチン群〔HR0.99(同0.59~1.64)〕やフルボキサミン群〔HR1.36(同0.78~2.34)〕のlong COVIDリスクは、プラセボ群と有意差がなかった。
この結果についてBramante氏は、「メトホルミンの抗ウイルス作用がlong COVIDの予防効果を発揮する主な理由と考えられるが、この薬は感染によって引き起こされる有害な炎症反応を軽減する作用もある」と解説。
また、「服用期間が2週間のみであり、かつ、インスリン分泌を増やさずに血糖値を下げる薬剤であるため、糖尿病でない患者が服用しても危険な低血糖は引き起こされない」と述べている。(HealthDay News 2023年6月9日)
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(参考情報)
Abstract/Full Text
https://www.thelancet.com/journals/laninf/article/PIIS1473-3099(23)00299-2/fulltext
構成/DIME編集部