短期集中連載/シン・マーケティング論
第2回:“〇〇したつもり”の日本のマーケティング
リーマンショックと呼ばれた世界的な経済減速以降、多くの日本企業がマーケティング部門を立ち上げ、人材を割り当て、マーケティングツールを購入し、予算と時間を投資してきました。しかし多くの企業では期待した成果を上げることが出来ず、売上貢献に至っていません。
その大きな原因は「部分最適」です。日本人は真面目で一生懸命に仕事に取り組みますが、それは多くの場合与えられたミッションに対してです。展示会、Web、セミナー、パンフレット、ユーザー会などのそれぞれの担当者が真面目に仕事に取り組んでいますが、全体最適を意識しているケースは少なく、それが原因で他のプロセスとは繋がっていません。
特に法人営業(B2B)では、繋がっていなければ売上げに貢献することは出来ず、それぞれが頑張るほどに予算を使い、担当者は疲弊しますが、成果は出ません。さらに成果を出そうと焦れば他部門との摩擦を引き起こし、結果的にマーケティング部門が社内で孤立することになります。
ここでは各施策について、成果を出せないメカニズムと改善のヒントを解説します。
1.「出展したつもり」の展示会
B2B企業向けの展示会は、東京ビッグサイトや幕張メッセなどでほぼ毎週開催されており、マーケティング担当者にとっては重要な施策です。しかし、予算も工数もかかる展示会を費用対効果でレポートできる企業は少なく、その理由は、出展の目的が曖昧だからです。「商談をする」「製品を観てもらう」「競合や販売代理店に元気であることを証明する」「アンケートで市場調査をする」「見込み客データを収集する」など、とても沢山の目的を持っているので結果的にどれも達成できずに終わっています。
マーケティング系のサービスの大部分は見込み客データを収集するためのものです。SEO(サーチエンジンオプティマイゼーション)も自社のWebに誘導し、そこでユーザー登録をして個人情報を取得することが目的ですし、ホワイトペーパーのダウンロードサービスなどもこれに該当します。こうした見込み客データを取得するコストの指標をCPL(コストパーリード)と呼びますが、これで比較すると日本の展示会はまだまだ圧倒的に高いコストパフォーマンスだと判ります。
ですから私は国内の展示会では出展の目的を「リードジェネレーション」にフォーカスしてはどうですか、と提案しています。
2.「判りやすいつもり」のWebサイト
各企業のコーポレートサイトは工夫を凝らし、デザインもナビゲーションも見事に進化しています。そして検索順位があがった、ページビューが増えた、直帰率が下がったなどを評価指標としています。しかし、そのWebがどのくらい売上に貢献したのかは分析していません。コーポレートサイトは求職者、投資家、お取引先など不特定多数の人が異なる目的で訪問してきますから誰にとっても心地の良いサイトにする必然性があります。訪問者の多くは購買に関係の無い人ですから、ここを分析しても売上げとの相関は見えてくるはずがないのです。
しかしマーケティングを目的とした場合、心地良さよりも、そこでの行動を解析する事で「ビジネスチャンスを見逃さない」という事が明確な目的になります。そのために「その製品・サービスが、どういう業種のどんな規模の企業の、どんな課題を、どうやって解決したのか」という情報が必要になります。つまり特定の人向けの専門特化した世界観が必要なのです。目的がまったく異なるなら、分けて管理した方がサイト訪問者も管理者も便利に決まっています。
私がコーポレートサイトとマーケティングサイトを分けて運営することを推奨する理由はこれなのです。
3.「活用しているつもり」のMA(マーケティングオートメーション)
2014年に日本市場で初めてMAがリリースされ、2023年現在ではおよそ20,000社が導入したと言われています。しかし、その多くはメール配信ツールとして機能の一部しか活用されないままです。
MAはその歴史から観てもデマンドジェネレーション(案件創出)のプラットホームとして生まれてきました。ですからこれを使いこなすにはMAの操作ではなく、「B2Bマーケティングのナレッジ」がどうしても必要になります。マイクロソフトのWordの操作が出来る事と、それを使って人を感動させる文章が書けることはまったく別ですが、同様にMAの操作が出来る事と、それを活用して売上げに貢献するマーケティングが出来る事はまったく別なのです。日本企業の導入したMAが本来の役割を果たせていないのは、B2Bマーケティングの知識や経験を持った人材やチームが社内にいないことが原因なのです。
4.「DXしたつもり」のSFA(セールスフォースオートメーション)
SFAの目的は営業案件をパイプラインで可視化し、受注決定率を向上させ、さらに納品までを見通したリソースを最適化することです。営業日報のデジタル化で営業パーソンを管理することではありません。営業の仕事を増やし、マネージャーの仕事を増やし、結果的に売上げに繋がる行動時間を減らしているなら本末転倒と言うべきでしょう。
文/庭山一郎
https://www.symphony-marketing.co.jp/
シンフォニーマーケティング株式会社 代表取締役。1962年生まれ、中央大学卒業。1990年9月にシンフォニーマーケティングを設立。データベースマーケティングのコンサルティング、インターネット事業など数多くのマーケティングプロジェクトを手がける。30年以上に渡り、大手B2B企業をメインに国内・海外向けのマーケティングサービスを延べ500社以上に提供している。
ライフワークとして、ブナの植林活動など「森の再生」に取り組む。
中央大学大学院ビジネススクール客員教授、IDN(InterDirect Network:インターダイレクトネットワーク)理事。
「BtoBマーケティング偏差値up」、「究極のBtoBマーケティング ABM(アカウントベースドマーケティング)」など著書多数。