SNSに日々、流れては消えていくおびただしい数の〝ネットミーム〟。これら若者のトレンドはどのように生まれて、なぜ流行するのだろうか。その傾向と対策を現代文化の専門家に聞いた。
ニッセイ基礎研究所 廣瀨 涼さん
専門は現代消費文化論で、オタクの消費を主な研究テーマとし、昨今では若者(Z世代)の消費文化についても研究している。日本テレビ『News every.』などに出演する。
ネタをおもちゃにするのがネットミームの楽しさ
そもそも「ネットミーム」とは何か? いわゆる「流行」とはどう違うのか。ニッセイ基礎研究所・生活研究部研究員の廣瀨涼さんによると、ネットミームとはネットスラング同様、ネットの中でしか使われないものであり、利用者が自由にアレンジすることで拡散されるもの。それに対して流行は現実社会で目にしたり、耳にしたりするものだという。
「例えば同じように再生回数が多い曲があったとして、その目的が『聴く』ことなら流行、『(投稿のために)使う』ならネットミームというイメージです」(廣瀨さん)
そんなネットミームの多くは今やTikTokから生まれる。その理由は投稿のハードルの低さにある。
「ゼロから作って編集するというYouTube型の動画投稿と比べて、TikTokは〝ダンスするだけ〟の投稿が多いです。『今日はどのネタで遊ぼうかな』というようなおもちゃ的な楽しさがある」(廣瀨さん)
もうひとつ、ネットミームが大量生産されやすい状況を作っているのが、TikTokの〝動線の多さ〟だ。現在TikTokでバズった動画はSNSの枠組みを超え、YouTubeショートやInstagramのリールなどに転用されることが増えている。
他方でネットミームはバズる言葉やコンテンツがあって生まれるものだ。流行するネタには何か共通点があるのだろうか。
「〝若者に使われやすい言葉〟には昔から2つの特徴があります。それは『ノリのいい語感』と『あいまいさ』です。SNSは再生産しやすいプラットフォームですので、容易に編集できるネタや言葉が歓迎されます。元ネタがわかるようにしながらも、いかにアレンジを加えるかが投稿のおもしろさのポイントなので、限定された意味を持っていないあいまいな言葉のほうが拡散されやすいのです」(廣瀨さん)
ネットミームは突然発生することも大きな特徴だ。それらを予測できればマーケティングなどに応用できそうだが、「難しい」と廣瀨さんは言う。
「マスコミが意図して流行を作っていた時代は、メディア露出の多さなどである程度は予測が立てられました。しかし今は消費者が流行を選択する時代です。感覚的な部分で〝マネしたい〟と思われたものだがバズっている」。ただ、いち早くキャッチアップするコツを〝1日の半分以上SNSに張り付けるなら(笑)〟という条件付きで教えてくれた。
「あくまで私の基準ですが、3日連続で3人以上のユーザーによって特定のネタや言葉を使用した投稿がされているのを見ると、バズる可能性があるなと思います。また、複数のプラットフォームでそのミームが散見されるようになると、流行る土壌が整い始めたなと認識しています」(廣瀨さん)
最後に廣瀨さんは「ネットミームは企業が利用するのはかなりハードルが高い」と忠告する。
「TikTok内の流行のスピードは非常に速いです。そのため社内で検討し決定が出た頃には、バズったネタは消費され尽くして古くなってしまう」。トレンドを生み出せるほどクリエイティビティーに自信がない限り、ネットミームはひとつのエンタメに留めておくべきかもしれない。
2020年に流行した「ぴえん」はTwitterを中心に拡大した。現在も多様なアレンジネタが日々投稿される。
取材・文/桑原恵美子